晋末宋初に関するエピソード群を様々な形で参照できる wiki です。

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**&aname(1){1}
''棲守道者,寂寞一時;''
''依附權勢者,淒涼萬古。''
''故達人觀物外之物,思身後之身,''
''寧受一時之寂寞,毋取萬古之淒涼。''

道心に従えば
ひとときの孤独のなかに陥るも、
權勢にすがりつけば
永劫のすさんだ心を得る。

故に道徳をよく修めたものは
目先の物質的な栄華に囚われず、
我が身を養うことに専心する。

ひとときの孤独を受け入れよ。
永劫のすさんだ心を得てはならぬ。


**&aname(2){2}
''涉世淺,點染亦淺;歷事深,機械亦深。''
''故君子與其練達,不若樸魯;與其曲謹,不若疏狂。''

世との関わりを浅くすれば、
世俗に浅く染まるだけで済む。

物事に深く関われば、
骨の髄まで俗事に染まる。

だから君子たるもの小器用であるより
うすらぼんやりしていた方が良く、
ばか丁寧であるくらいなら
ぶっきらぼうなくらいの方が良い。


**&aname(3){3}
''君子之心事,天青日白,不可使人不知。''
''君子之才華,玉韞珠藏,不可使人易知。''

君子の心掛け、思いのごときは
天が青く日が皓然たるに似る。
それを人々が知らずにおれぬ。

君子の才覚、実力のごときは
玉隠され珠しまわれるに似る。
それを人々は容易に悟れぬ。


**&aname(4){4}
''勢利紛華,不近者為潔,近之而不染者為尤潔;''
''智械機巧,不知者為高,知之而不用者為尤高。''

絢爛たる栄華に近寄らぬものは
潔くあるが、
最も潔き者は栄華の中にあり、
なおも染まらぬものである。

権謀術数に近付かぬものは
高みにあるが、
最も高みにあるものは権謀術数の中
なおも取り込まれぬものである。


**&aname(5){5}
''耳中常聞逆耳之言,心中常有拂心之事,''
''纔是進修行的砥石。''
''若言言耳,事事快心,便把此生埋在鴆毒中矣。''

それを聞けば
不愉快になるようなことをこそ聞こう。
それに触れれば
不愉快になるようなことにこそ触れよう。

そこには、自分の欠点を磨き直す
重要なヒントがあるのだ。

この耳を粗雑に喜ばせ、
この心を粗雑に喜ばせる言葉は、
私の行かんとする先に
破滅を用意するのだ。


**&aname(6){6}
''怒雨疾風,禽鳥戚戚;''
''霽日光風,草木欣欣。''
''可見天地不可一日無和氣,人心不可一日無喜神。''

土砂降りの雨、吹き荒れる風。
鳥は大小なく身をすくめる。

やがて晴れ渡り、爽やかな風。
草木はその枝葉を茂らせる。

天地に調和の取れておらぬ日など
一日もなく、
人の心に喜びなき日など
一日もなきはずである。


**&aname(7){7}
''醲肥辛甘非真味,真味只是淡;''
''神奇卓異非至人,至人只是常。''

濃い味付け、脂の載った肉。
辛さや甘さ、濃厚な味。
これらは本当の味わいではない。
本当の味わいは恬淡な中にある。

聡明さ、特殊な振る舞い。
ずば抜け、他と異なること。
これらは至人ではない。
本当の至人は常に平静でいる。


**&aname(8){8}
''天地寂然不動,而氣機無一息少停;''
''日月晝夜奔馳,而貞明則萬古不易。''
''故君子了要有喫緊的心思,忙處要有悠療趣味。''

天地のありようは
いつまでも変わることもないのだが、
さりとて留まることがない。

太陽や月は
日夜動き回るも、
その輝かしさが変わることもない。

このため、君子は穏やかな時に
いつ急時になっても対応できるよう備え、
あくせくと動き回る時には既に
のんびりとした時間を思うのである。


**&aname(9){9}
''夜深人靜,獨坐觀心,''
''始覺妄窮而真獨露,每於此中得大機趣;''
''既覺真現而妄難逃,又於此中得大慚忸。''

真夜中、人気《ひとけ》のない場所で瞑想する。

気付くのだ。

迷妄が行き着くだけ行き着けば、
あとは裸の自分に
いつまでも向き合うしかないのだ、と。
なんとも得難き気付きであることか。

そしてまた、
理解するのだ。

目先のあれこれに翻弄されれば、
逃れようのない目先のあれこれに
いつまでも心を乱され続けるのだ、と。
なんとも恥ずべき失態であることか。


**&aname(10){10}
''恩裏由來生害,故快意時,須早回頭;''
''敗後或反成功,故拂心處,莫便放手。''

片時寵愛を受けたとて、
その裏に害意も生まれ得る。
うまく行っているときほど、
我が身を反省すべきである。

えてして失敗の後に、
成功のいとぐちが掴めるものである。
上手く行かぬからと言って、
早々に諦めてはならぬ。


**&aname(11){11}
''藜口莧腸者,多冰清玉潔;''
''袞衣玉食者,甘婢膝奴顏。''
''蓋志以澹泊明,而節從肥甘喪也。''

アカザやスベリヒユを煮込んだ
質素なスープで腹を満たすものは、
多くが氷や宝玉の如き清らかさを示す。

きらびやかな服を着、
豪華な飯を楽しむものは
女奴隷がひざまずいたり、
男奴隷が媚びへつらうかのような顔つきを、
より上位の者へと向けることに
甘んじねばならぬ。

思うに、気高き志とは
質素さが生むもののようであるが、
一度贅沢に慣れてゆけば、
徐々に失われるものなのだろう。


**&aname(12){12}
''面前的田地要放得遏せ反楊吃塋診恵掘''
''身後的惠澤要流得長,使人有不匱之思。''

いま自らと関わり合いになる人々には
包み隠さぬ心持ちから寛大さを得、
不公平感を抱かせぬようにしたいものだ。

後世の人々に対しては
生活に困らぬだけの資産を残し、
貧乏にあえがぬようにさせたいものだ。


**&aname(13){13}
''徑路窄處,留一步與人行;''
''滋味濃的,減三分讓人嗜。''
''此是涉世一極安樂法。''

小道で人に行きあったなら、
一歩道を譲るのが良い。

深い旨みの食べ物に巡りあったなら、
三割を相伴者に譲るのが良い。

これこそが人の世を渡り歩くための
究極の極意のひとつである。


**&aname(14){14}
''作人無甚高遠事業,擺脫得俗情,便入名流;''
''為學無甚甕弭夫,減除得物累,便超聖境。''

人としてあれば、
あれこれと壮大な事業を
手がけようとしなくとも、
余計な雑念さえ捨て去れれば、
ひとかどのスキルは得られるものだ。

ものごとを学ぶのに、その手立てを
あれこれ工夫しようとせずとも、
余計な俗事から遠ざかれさえすれば
一頭地も抜けられはするものだ。



**&aname(15){15}
''交友須帶三分俠氣,做人要存一點素心。''

友との交わりにも利害を交えざるを得ぬ。
しかし三割は利害を超えた思いを抱かん。

人との交わりにも利害を求めざるを得ぬ。
しかしどこかには純粋な思いを残さん。



**&aname(16){16}
''寵利毋居人前,業毋落人後;''
''受享毋踰分外,修為毋減分中。''

寵愛、利益を我先にと求めぬよう。
我先にと求めるべきは徳業である。

自分の分を弁えぬ利益を得ぬように。
自分の分にも満たぬ修練で飽きぬように。



**&aname(17){17}
''處世讓一步為高,退步即進步的張本;''
''待人邂貶是福,利人實利己的根基。''

進みたいと思う道筋を他者に譲る。
かえって将来、より高き境地にたどり着ける。

ひとの仕事の成果にケチをつけない。
かえって将来、この仕事の成果が
より高く評価されるのだろう。


**&aname(18){18}
''蓋世功勞,當不得一個矜字;彌天罪過,當不得一個悔字。''

世に轟かんばかりの功績とは、
欠片ほどにも自慢の心が混じらぬ。

天を揺るがさんばかりの罪業とは、
欠片ほどの後悔もない。


**&aname(19){19}
''完名美節,不宜獨任,分些與人,可以遠害全身;''
''辱行污名,不宜全推,引些歸己,可以韜光養。''

名声や栄誉は
独り占めしないほうが良い。
幾分でも分散ができれば、
リスクも分散され、
危地にも遭いにくいものである。

醜態や汚名は
自分でも引き受けるのが良い。
幾分でも引き受けておけば
下手に名声も高まらぬし、
内なる美徳をも磨きうる。


**&aname(20){20}
''事事留個有餘不盡的意思,''
''便造物不能忌我,鬼神不能損我。''
''若業必求滿,功必求盈者,''
''不生內變,必召外憂。''

なにごとかに取り組むのであれば、
全身全霊を捧げよう、と
意気込んではならぬ。

ほどほどのところで
乗り切れよう振る舞うべし。

創造主もそんなやつをこき使おうと
企まないであろうし、
先祖の霊もあえてお前を克己精励に
駆り立てないであろう。

下手に功遂げ名を究めんとすれば、
あるいは内面は変わらないやも知れぬ。
しかし外からの災いを招きかねぬ。


**&aname(21){21}
''家庭有個真佛,日用有種真道。''
''人能誠心和氣,愉色婉言,''
''使父母兄弟間,形骸兩釋,''
''意氣交流,勝於調息觀心萬倍矣。''

個々人の信仰、個々人の技能。
どうして粗雑に裁定できようか。

ならばこそ、
他者の思いに正面から向き合い、
その感情に逆らわず寄り添い、
そのやることなすことを楽しみ、
紡ぎ出される言葉に喜ぶのが良い。

そうすれば、親兄弟の間の
心体に渡る緊張もほどけようし、
意思疎通も取れやすくなろう。

道教に言う調息、仏教に言う觀心。

……なんぞをいちいち追い求めるより、
他者に素直に向き合えたほうが
心の平安度は一万倍以上高い。


**&aname(22){22}
''好動者,雲電風燈;嗜寂者,死灰槁木。''
''須定雲止水中,有魚躍鳶飛氣象,纔是有道的心體。''

活動的なものは
稲光であるか風に吹かれる灯火のよう。
静寂を愛するものは
燃え尽きた灰であるか枯れ木かのよう。

ひとたるもの、水面に雲を映し出し、
水面下では魚たちがいきいきと踊り、
鳶たちの悠々と飛ぶ様をもまた映す。

こうしたありようこそが、
道を合致した心地である、
と言えるのではないか。


**&aname(23){23}
''攻人之惡,毋太嚴,要思其堪受;''
''教人之善,毋過高,當使其可從。''

人の落ち度を指摘するのに
厳しくしすぎてはならない。
相手がどこまで受け止められる
器量なのかを見極めねばならない。

人に良きことを教えるのに
あまり高度すぎてはならない。
相手がどこまで為し遂げられる
実力なのかを見極めねばならない。


**&aname(24){24}
''糞蟲至穢,變為蟬而飲露於秋風;''
''腐草無光,化為螢而耀采於夏月。''
''固知潔常自污出,明每從晦生也。''

セミの幼虫は穢土にのたうつが、
秋口にもなれば木に止まり、露を飲む。

枯れ草積もる中に光はないが、
そこから生まれるホタルは夏の夜に瞬く。

我々は知っているではないか、
潔きものは汚れより生まれ出で、
明るきものは闇の中から生まれる、と。


**&aname(25){25}
''矜高倨傲,無非客氣,''
''降伏得客氣下,而後正氣伸;''
''情欲意識,盡屬妄心,''
''消殺得妄心盡,而後真心現。''

自矜傲慢は借り物の強さである。
そうした虚勢から離れ、
初めて自らを満たしうる。

情欲や知識欲は妄執である。
こうした妄執をかき消し、
初めて自らの心を覗き込める。


**&aname(26){26}
''飽後思味,則濃淡之境都消;''
''色後思淫,則男女之見盡絕。''
''故人常以事後之悔悟,''
''破臨事之癡迷,則性定而動無不正。''

食べ過ぎた後に
何がうまい、まずいなど
考えるだろうか。

オセッセセセでイッた直後、
誰が素敵、誰とやりたいなど
明確に考えられるだろうか。

何かをやった、やりすぎた、
そういった時の後悔を覚えておき、
あの気持ちを追体験したくない、
と思って振る舞えば、
まぁ、ポカも減るのではないか。


**&aname(27){27}
''居軒冕之中,不可無山林的氣味;''
''處林泉之下,須要懷廊廟的經綸。''

政や商売のただなかにあっても、
山林の中で佇むがごとき心地を
忘れてはならぬ。

山林に佇んでいるときにも、
家業国家の運営にまつわる思考を
止めてはならぬ。


**&aname(28){28}
''處世不必邀功,無過便是功;''
''與人不求感,無怨便是。''

世間を渡り歩きたいのであれば、
功績を立てるより、
失敗がないよう務めよ。
それが結果として功績となる。

人と交わりあいたいのであれば、
こちらがもたらした恩恵を
下手に主張するよりも、
鷹揚な態度を示したほうが
より徳深き振る舞いと見られよう。


**&aname(29){29}
''憂勤是美,太苦則無以適性怡情;''
''澹泊是高風,太枯則無以濟人利物。''

滅私奉公は、まあ美徳である。
とはいえその苦しみは、
我が心をどこまで楽しませるだろうか。

無為恬淡も、まあ高潔である。
とはいえその無欲さは
どれだけ世の人々を救い出せようか。


**&aname(30){30}
''人至事窮勢蹙,宜原其初心;''
''士當行滿功成,要觀其末路。''

携わる事業が行き詰まったなら、
何故それをやりたかったか、を思い出せ。

携わる事業が成功したのなら、
行き着く先が何なのか、を想像しろ。


**&aname(31){31}
''富貴家宜邯,而反忌刻,''
''是富貴而貧賤其行矣,如何能享?''
''聰明人宜斂藏,而反耀,''
''是聰明而愚懵其病矣,如何不敗?''

富貴なるものは寛容であるべきだが、
往々にして猜疑心が強い。
資産はともあれ心根が貧しければ、
どうして豊かさを享受できようか。

聡明なるものは恭謙であるべきだが、
往々にして虚栄心が強い。
聡明さを愚かしさの病に浸り切らせ、
どうして禍に巻き込まれずにおれようか。


**&aname(32){32}
''居卑而後知登高之為危,''
''處晦而後知向明之太露;''
''守靜而後知好動之過勞,''
''養默而後知多言之為躁。''

低地におれば、高く登った先が
危険であることに気づける。
暗地におれば、まばゆき場所が
諸処を暴き立てると気づける。

静謐を貫けば、慌ただしく動くことで
労ばかりが積み重なると気づける。
沈黙を貫けば、賢しらに喋ることで
面倒ばかりが舞い込むと気づける。


**&aname(33){33}
''放得功名富貴之心下,便可脫凡;''
''放得道仁義之心下,纖可入聖。''

功名富貴を求める気持ちを捨て去れば
凡愚の境地からは脱し得ようか。

道仁義に執着する気持ちを捨て去れば
多少は聖人の境地も知り得ようか。


**&aname(34){34}
''利慾未盡害心,意見乃害心之蟊賊;''
''聲色未必障道,聰明乃障道之藩屏。''

金銭欲や物欲が必ずしも
素心を損ねさせる訳でもない。
それらを得んとする思考や見識が
素心を蝕まんとする害虫である。

名声欲や色欲が必ずしも
探求を損ねさせる訳でもない。
それらを得んとする視野や観察が
探求を妨げんとする障壁である。


**&aname(35){35}
''人情反復,世路崎嶇。''
''行不去處,須知退一步之法;''
''行得去處,務加讓三分之功。''

人生の旅路はままならぬ、険しきもの。

行く先が塞がっているときには
一歩下がるのもまた良い。

行く先が開けていたとしても
三割ほどを他者に譲るのが良い。


**&aname(36){36}
''待小人,不難於嚴,而難於不惡;''
''待君子,不難於恭,而難於有禮。''

小人と接するときにその短所を
あげつらって叩くのは簡単だが、
それで憎まれないかといえば、難しい。

君子と接するときに敬意持って
恭しく接するだけなら簡単だが、
それだけで対等の礼を
してもらえるかと言えば、難しい。


**&aname(37){37}
''寧守渾噩而黜聰明,留些正氣還天地;''
''寧謝紛華而甘澹泊,遺個清名在乾坤。''

素朴さを保ち、聡明さを退けよ。
斯くして天地の間で正気を保ち置ける。

絢爛さに背を向け、淡白さを貫け。
斯くして天地の間で清名を保ち置ける。


**&aname(38){38}
''降魔者,先降自心,心伏,則群邪退聽;''
''馭埃圈だ蔡悩−罅ぽ翳拭ぢС引塢埒。''

邪悪なもの、邪なるものを
退けたいのであれば、
そうした思いに逸る自らの心を
まず鎮めるように。
さすれば邪なるものらも
自ずと退くものである。

一方的に我を押し付けてくるものを
抑え込みたいのであれば、
抑え込まんと昂ぶる気持ちを
まず鎮めるように。
さすればいちいち他人の都合に
左右されずに済むものである。


**&aname(39){39}
''教弟子,如養閨女,最要嚴出入,謹交遊。''
''若一接近匪人,是清淨田中,''
''下一不淨種子,便終身難植嘉禾矣。''

弟子の教育は箱入り娘の養育に似る。
何よりも人の出入りを監視し、
交友関係を絞らねばならぬ。

ろくでもない輩とつるませれば
それは掃き清めた良田に
毒草の種を蒔くようなものである。
永劫に良き実りは望めるまい。


**&aname(40){40}
''慾路上事,毋樂其便而姑為染指,一染指便深入萬仞;''
''理路上事,無憚其難而稍為退步,一退步便遠隔千山。''

欲望に基づいた行動は、
手っ取り早いからと、
あまり気軽に手を染めてはならぬ。
ひとたび欲に従い手を染めれば、
あとは安逸の万尋の谷を
転げ落ちるばかりである。

研鑽、探求ごとは
いささか大変だからと
あまり安易に手を抜いてはならぬ。
一度手抜きの味を覚えれば、
克己を積み重ねる者には
はるか千の山の向こうに
置き去られよう。


**&aname(41){41}
''念頭濃者,自待厚,待人亦厚,處處皆濃;''
''念頭淡者,自待薄,待人亦薄,處處皆淡。''
''故君子居常嗜好,不可太濃豔,亦不宜太枯寂。''

思考を濃厚にしようとするものは
自らに対しても、他者に対しても
ずいぶんと色濃く考える。

思考を淡泊にしようとするものは
自らに対しても、他者に対しても
ずいぶんと淡泊に考える。

君子が取るべきは
常に濃すぎず、薄すぎず、
ちょうどの塩梅を保つことである。


**&aname(42){42}
''彼富我仁,彼爵我義,君子固不為君相所牢籠;''
''人定勝天,志壹動氣,君子亦不受造物之陶鑄。''

彼が富や地位を誇るなら、
私は仁や義こそを誇ろう。

君子たるもの、地位のためになど
がんじがらめになりはせぬ。

強き志は天意をも揺らがし、
人の気をも動かしうる。

君子はまた、世俗のしがらみにも
がんじがらめになりはせぬ。


**&aname(43){43}
''風恬浪靜中,見人生之真境;''
''味淡聲希處,識心體之本然。''

穏やかな風、ささやかな波。
ふと人生を得心する。

かすかな味、ほのかな音。
感覚が研ぎ澄まされる。


**&aname(44){44}
''立身不高一步立,如塵裏振衣,泥中濯足,如何超達;''
''處世不退一步處,如飛蛾投燭,羝羊觸藩,如何安樂。''

ひとたび栄達を志ざしながらも
栄達叶わずば
砂埃のなかで袖を振り、
汚泥で足を洗うようなもの。
競争の中、悟りは得られようか。

ひとたび世に生まれ落ち、
譲れるものも譲らずば
ロウソクに飛び込む蛾や
生け垣に突っ込む牡羊がごとき末路たらん。
その先に安息の日々はあろうか。


**&aname(45){45}
''學者要收拾精神,併歸一路。''
''如''
''修而留意於事功名譽,必無實詣;''
''讀書而寄興於吟詠風雅,定不深心。''

学問を志す者であれば、学びに専心し、
脇目を振ってはならぬ。

仮に、である。

徳業を功績や名誉のためになせば
その下心が修養を遠ざけよう。

学問とて歌心や風雅に気を取られれば
その内心の深化は進まぬのだ。


**&aname(46){46}
''人人有個大慈悲,維摩屠劊無二心也;''
''處處有種真趣味,金屋茅簷非兩地也。''
''只是慾蔽情封,當面錯過,便咫尺千里矣。''

ひとはおのおの慈悲を抱くものである。
これは偉大な仏僧から
屠殺人、処刑人でも変わらない。

住処はおのおの風情を抱えるものである。
これは立派な宮殿から
あばら家に至るまで変わらない。

しかし欲望や情念がそれを見失わせる。
目の前に立派とされるものが来れば
ありがたがろうとするし、
目の前に卑しいとされるものが来れば
嫌悪しようとする。

指ひとつまみほど程度の違いが、
なんとも大きな隔たりとなるものだ。


**&aname(47){47}
''進修道,要個木石的念頭,若一有欣羨,便趨慾境;''
''濟世經邦,要段雲水的趣味,若一有貪著,便墮危機。''

その身の修養にあたり、
自らの身が木や石のごときもの、
と認識しておくように。
そこに喜びや嫉妬が混じれば
我欲のただ中に陥ろう。

世の中を切り盛りする身ならば
おのが心を雲や水の間に
いよいよ漂わせおくべきである。
貪欲、執心を示せば
自ずと危機を招こう。


**&aname(48){48}
''吉人無論作用安詳,即夢寐神魂,無非和氣;''
''凶人無論行事狠戾,即聲音笑貌,渾是殺機。''

吉をもたらす人は、
外向きの吉事は言うまでもなく、
その夢の中においても、
常に安らかで居るものである。

凶をもたらす人は、
外向きの凶行は言うまでもなく、
その声音や笑顔にも
全て害意を帯びるものである。


**&aname(49){49}
''肝受病,則目不能視;''
''腎受病,則耳不能聽;''
''病受於人所不見,必發於人所共見。''
''故君子欲無得罪於昭昭,先無得罪於冥冥。''

肝臓に得た病は、やがて視力を奪う。
腎臓に得た病は、やがて聴力を奪う。

病は見えないところから始まるが、
最終的には誰の目にもわかるようになる。

故に君子たるもの
おおっぴらな罪を得ないよう、
ささやかな罪を犯すこともないのである。


**&aname(50){50}
''福莫福於少事,禍莫禍於多心。''
''唯苦事者,方知少事之為福;''
''唯平心者,始知多心之為禍。''

かかずらうものが少ないことほど
幸いなることもあるまい。
かかずらうものが多いことほど
禍いたることもあるまい。

とは言え、いちど煩瑣に苦しまねば、
従事の少なさを幸いと思えぬものだ。
平静さを保ち置ける者も、かつては
煩瑣の労苦を味わったことであろう。


**&aname(51){51}
''處治世宜方,處亂世宜圓,處叔季之世,當方圓並用;''
''待善人宜遏ぢ墮┸裕荒遏ぢ塒眾之人,當醵邯濛検''

治世にあっては四角四面が良い。
乱世にあっては丸くあるのが良い。
その狭間のときにあっては、
双方を使い分けねばならぬ。

善人をもてなすのは醢造砲董
惡人に対応するには厳しく。
どちらでもない大多数には、
双方を使い分けねばならぬ。


**&aname(52){52}
''我有功於人不可念,而過則不可不念;''
''人有恩於我不可忘,而怨則不可不忘。''

何かの功績を得たとき、
そのことは忘れるのが良い。
誰かに過ちを犯したとき、
そのことは忘れぬのが良い。

誰かから恩を受けたら
そのことは忘れぬのが良い。
誰かを怨みに思ったら
そのことは忘れるのが良い。


**&aname(53){53}
''施恩者,內不見己,外不見人,則斗粟可當萬鍾之惠;''
''利物者,計己之施,責人之報,雖百鎰難成一文之功。''

誰かに恩をもたらしておきながら、
自らの利益も、他者よりの感謝にも
見向きしないものによる僅かな恵みは
莫大な恩恵をもたらすものである。

周りに利益を与えるのに、
自らの利益や、他者よりの尊敬に
気を取られ続けておれば、
たとえ百金をなげうったとて
まともな功績も残せるまい。


**&aname(54){54}
''人之際遇,有齊有不齊,而能使己獨齊乎?''
''己之情理,有順有不順,而能使人皆順乎?''
''以此相觀對治,亦是一方便法門。''

人生楽あり苦ありである。
自分ひとり楽を味わうだけの
ままでいられようか?

己の感情にも順調不調がある。
ならばひとの機嫌がいつでも
いいままでなどあり得ようか?

己にも、相手にもバイオリズムがある。
それらとうまく付き合うのが、
処世の処方ではなかろうか?


**&aname(55){55}
''心地清淨,方可讀書學古。''
''不然,見一善行,竊以濟私,''
''聞一善言,假以覆短,是又藉寇兵而齎盜糧矣。''

清く澄み渡った心地にて、
書よりいにしえの心を学ぶのが良い。

では、それを全うできずに学べば。

典籍に残る良き行いを、
自らの利益のために実践する。
典籍に残る良き言動を、
自らの失態を糊塗するため用いる。

なんだ、これは。
侵略者に兵力を与え、
盗賊に食料を差し出す。
そのようなものではないか。


**&aname(56){56}
''奢者富而不足,何如儉者貧而有餘;''
''能者勞而府怨,何如拙者逸而全真。''

驕り高ぶるものが資産を得てもなお
さらなる資産を求めるのと、
つつましきものが貧しくともなお
余財を抱えるのとの、
どちらが良いだろうか。

有能なものが日々労力を費やしてなお
他者から恨みつらみを受けるのと、
無能なものが集団からはぐれてなお
自身の本分を全うできるのとの、
どちらが良いだろうか。


**&aname(57){57}
''讀書不見聖賢,為鉛槧傭;''
''居官不愛子民,為衣冠盜;''
''講學不尚躬行,為口頭禪;''
''立業不思種,為眼前花。''

聖賢の言葉尻の奴隷であるな。

官吏ならば民を愛すべし。

能書きだけの書生坊主であるな。

事業で目先の小金に溺れるな。


**&aname(58){58}
''人心有一部真文章,都被殘編斷簡封錮了;''
''有一部真鼓吹,都被妖姬豔舞湮沒了。''
''學者須掃除外物,直覓本來,纔有個真受用。''

自らのこころを深堀りするのだ。

その奥には見るべき興趣が潜むものだ。
掘り出し方がわからぬ故に、
その断片を見るべき無しと封じる。

その中には気高き歌声が潜むものだ。
照らし出し方がわからぬ故に、
いかがわしきものとして埋め立てる。

学ぶひとよ。外面にとらわれるな。
内側にあるもの、奥にあるものを
求めてゆけば、
その中にほんのかすかにでも、
己が真の才覚を見いだせよう。


**&aname(59){59}
''苦心中,常得心之趣;''
''得意時,須防失意之悲。''

逆境に向き合う中で、
「こいつは楽しいな」と思える
何かを見出せたなら、強い。

順風満帆のタイミングに、
「やべーことが起こりそうだ」と思える
何かを見出せたなら、強い。


**&aname(60){60}
''富貴名譽,自道來者,如山林中花,自是舒餘繁衍;''
''自功業來者,如盆檻中花,便有遷徙廢興;''
''若以權力得者,如瓶鉢中花,其根不值,其萎可立而待矣。''

富貴と名譽をどのように得たか。

道あるふるまいから得たならば、
山林に咲く花がごとく、
生き生きと繁茂する。

功績業績によって得れば、
鉢植えの花がごとく、
状況で移り変わる。

権力を振るって得れば、
花瓶に挿された花がごとく、
一応立っているが、
枯れるのを待つばかりである。


**&aname(61){61}
''春至時和,花尚舖一段好色,鳥且囀幾句好音。''
''士君子幸值清時,復遇溫飽,不思立好言,行好事,''
''雖是在世百年,恰似未生一日。''

春が訪れ、寒さも和らげば
花は色鮮やかに咲き、鳥も美しくさえずる。

世に受け入れられ、衣食が満ちれば、また、
士人も美しき言葉を、君子も美しき行いを。

このように思えないのであれば、
仮に百年を生きたとしても、
一日ぶんの生も全うできたとは言えぬのだ。


**&aname(62){62}
''學者有段競業的心思,又要有段瀟洒的趣味。''
''若一味斂束清苦,是有秋殺,無春生,何以發育萬物。''

学習者に身を削るような克己心は
確実に求められこそする。
しかし、遊び心もまた必要である。

ただ求道にのみ身を削れば、
秋風が草葉を枯らし殺すのみである。
穏やかな春風無くして、
どうして万物が育まれようか。


**&aname(63){63}
''真廉無廉名,圖名者正所以為貪;''
''大巧無巧術,用術者乃所以為拙。''

誠に慎ましきものは
慎ましさでの名声など得ぬ。
そうした名声を得たらんと目すものは
単に貪欲なだけである。

真に優れた技術は
作為の欠片も見せぬ。
そうした見せかけの技巧を求めるうちは
拙きままである。


**&aname(64){64}
''欹器以滿覆,撲滿以空全。''
''故君子寧居無不居有,寧處缺不處完。''

特殊な水差し、欹器は
満タンになるとひっくり返る。
貯金箱、撲滿は
中に金が満ちると割られてしまう。

満ち足りることは、あやうい。

故に君子は確かな居場所なぞ求めず、
また完璧なる安寧をも求めぬのだ。


**&aname(65){65}
''名根未拔者,縱輕千乘甘一瓢,總墮塵情;''
''客氣未融者,雖澤四海利萬世,終為賸技。''

名誉に未練があるものは、
たとえ諸侯を軽んじ、
一杯の水を楽しんだとしても
結局は世論に囚われ続ける。

他人の目を気にすれば、
たとえ世界に恵みをもたらし、
子孫に資産を残したとしても、
おまけのような人生にしか感じぬ。


**&aname(66){66}
''心體光明,暗室中有青天;''
''念頭暗昧,白日下生匍粥''

身体を健やかに保ち置ければ、
暗中模索の中でも晴れやかでおれよう。

身体の健やかさを保てねば、
順風満帆の中でも煩悶を禁じ得まい。


**&aname(67){67}
''人知名位為樂,不知無名無位之樂為最真;''
''人知飢寒為憂,那知不飢不寒之憂為更甚。''

栄誉賞賛を浴びる喜ばしさよ。
それなくとも喜びを覚えておれるほうが
より日々を楽しめるのだが。

飢え寒さの只中にある苦しさよ。
それなくとも憂いを抱き続けるほうが
より日々が苦しいのだが。


**&aname(68){68}
''為惡而畏人知,惡中猶有善路;''
''為善而急人知,善處即是惡根。''

悪事を為すときに露見を恐れるなら、
まだ踏みとどまれる余地もあろう。

善事を自慢の道具としか見なさぬなら、
地獄への石積みとなろう。


**&aname(69){69}
''天之機緘不測。''
''抑而伸,伸而抑,皆是播弄英雄,顛倒豪傑處。''
''君子只是逆來順受,居安思危,天亦無所施其技倆矣。''

天の配剤なぞ、
およそひとに測れるものではない。
あるときは誰かを勇躍させ、
かと思えば抑え込み。
またあるときは、その逆。

天の気まぐれに英雄は翻弄され、
豪傑すらときに打ち倒される。

しかるに、君子は逆境を
ただ我が身に訪れたもの、
としてのみ受け取る。
安楽の中にいつでも危地が
潜みうるもの、と認識する。

故に天は君子を押さえつけも、
飛躍させもできぬのである。


**&aname(70){70}
''燥性者火熾,遇物則焚;''
''寡恩者冰清,逢物必殺;''
''凝滯固執者,如死水腐木,生機已絕。''
''俱難建功業而延福祇。''

苛烈な性分の者は、
行き会うすべてを焼き払う。

冷淡な性分の者は、
行き会うすべてを凍て殺す。

固執する性分の者は
生きながらにして壊死してゆく。

こうした性分の者たちが
仮に功績を打ち立ててみたところで、
どれだけ幸いを分かち合えようか。


**&aname(71){71}
''福不可邀,養喜神,以為召福之本而已;''
''禍不可避,去殺機,以為遠禍之方而已。''

幸福を求めてはならぬ。
何事にも喜ぶことで、
自らの生が幸いとなるよう
思いを整えよ。

災いを避けられはせぬ。
あらゆる災いを
従容と受け入れれば、
さらなる災いをも避け得よう。


**&aname(72){72}
''十語九中,未必稱奇,一語不中,則愆尤駢集;''
''十謀九成,未必歸功,一謀不成,則訾議叢興。''
''君子所以寧默毋躁,寧拙毋巧。''

識者は十の予見のうち、
たったひとつが外れることで、
大いに批判されがちである。

軍師は十の謀略のうち、
たったひとつが外れることで、
大いに糾弾されがちである。

君子がなぜ沈黙を求めるか?
あえて拙いと思われようとするのか?

他者よりの期待が
往々にして毒となり得るからである。


**&aname(73){73}
''天地之氣,暖則生,寒則殺。''
''故性氣清冷者,受享亦涼薄。''
''唯和氣熱心之人,其福亦厚,其澤亦長。''

天地は、
温暖であれば生物を育み、
寒冷であれば生物を殺す。

即ち、
冷淡なる者は恩恵にも淡白であり、
温和なる者は恩恵にも歓喜し、
その恩恵にも長く与り続ける。


**&aname(74){74}
''天理路上甚遏ゃ爪眇粥ざ暫翳憺換睫跡大;''
''人欲路上甚窄,纔寄跡,眼前俱是荊棘泥塗。''

天のことわりは無窮。
天に心をたゆたせれば、
無限の視野を手に入れられる。

人の欲のちまたは狭隘。
さなかでいくらもがいても、
茨に傷つき、泥濘に足を取られるのみ。


**&aname(75){75}
''一苦一樂相磨鍊,鍊極而成福者,其福始久;''
''一疑一信相參勘,勘極而成知者,其知始真。''

自己研鑽における苦しみと、楽しみ。
そのどちらもを受け入れた先に得た
功績こそが、久しく身を立てる。

試行錯誤における疑念と、受容。
そのどちらもを検証し続けた先に得た
見識こそが、まことの知恵である。



**&aname(76){76}
''心不可不虛,虛則義理來居;''
''心不可不實,實則物欲不入。''

内心に雑念を住まわせてはならぬ。
雑念を打ち払えたならば
同義、真理が心に住み着こう。

内心が道義、真理に満ち溢れておれば、
物欲に心乱されもせぬのだ。


**&aname(77){77}
''地之穢者多生物,水之清者常無魚。''
''故君子當存含垢納污之量,不可持好潔獨行之操。''

泥濘の中には多くの生き物が住み、
清水の中にはほとんど魚がいない。

君子たるもの、世俗の汚泥を引き受け、
迂闊に潔癖であり続けようとしてはならぬ。


**&aname(78){78}
''泛駕之馬可就馳驅,''
''躍冶之金終歸型範。''
''躍冶之金終歸型範。
''只一優游不振,便終身無個進步。''
''白沙云:''
''「為人多病未足羞,一生無病是吾憂。」真確論也。''
「為人多病未足羞,一生無病是吾憂。」真確論也。''

じゃじゃ馬は乗り手次第で名馬となり、
粗鋼も鍛冶師次第で良き器となる。

しかし、いかなる才能があったとて、
その才能を無駄に遊ばせてばかりでは
その生涯にてなんら足跡を残せはせぬ。

陳献章先生は仰った。

「病多き人生なぞ、恥じるに足りぬ。
 病に苦しむことを知らぬ人生を
 送ってきたものにこそ、
 いざというときの対応に
 不安を覚えずにおれぬのだ」

人生の順境、逆境を検証するにあたり、
重々に弁えおかねばならぬ言葉ではないか。


**&aname(79){79}
''人只一會貪私,便銷剛為柔,''
''塞智為昏,變恩為慘,染潔為污,壞了一生人品。''
''故古人以不貪為寶,所以度越一世。''

ひとたび私欲にまみれれば
強きはずの心はふやけ、
聡明さも暗愚となり、
他人には害ばかりをもたらし、
純潔の心を汚す。

こうなれば人生は終わる。

ゆえに古人は貪婪さを捨て
慎ましやかさを宝とし、
その人生と送り切ったのである。


**&aname(80){80}
''耳目聞見為外賊,情欲意識為內賊。''
''只是主人翁惺惺不昧,獨坐中堂,賊便化為家人矣。''

外からは目や耳を通じ、
うちからは欲望情念を通じ、
種々の邪心の種がもたらされる。

我が魂のみを明瞭とし、曇らせず、
心を魂のそばにて瞑想させよ。

さすれば外部よりの情報も、
内心の欲求も、よき隣人となろう。


**&aname(81){81}
''圖未就之功,不如保已成之業;''
''悔既往之失,不如防將來之非。''

取らぬ狸の皮算用をする暇があったら、
すでに確立された体制の維持を心掛けよ。

覆水盆に返らずである。
ならば将来のトラブルを防く策を考えよ。



**&aname(82){82}
''氣象要高曠,而不可疏狂;''
''心思要縝密,而不可瑣屑;''
''趣味要沖澹,而不可偏枯;''
''操守要嚴明,而不可激烈。''

理想を求めてもよい、
詰めすぎて偏狭にならぬようにせよ。

深く思考するのはよい、
詰めすぎて意固地にならぬようにせよ。

恬淡なる心持ちを抱くのもよい、
詰めすぎて枯れ果てぬようにせよ。

倫理節度を固く守るのはよい、
詰めすぎて激烈にならぬようにせよ。


**&aname(83){83}
''風來疏竹,風過而竹不留聲;''
''雁度寒潭,雁去而潭不留影。''
''故君子事來而心始現,事去而心隨空。''

竹林に吹き込む風はさざめきを産むも、
いざ風が去ればその音も去りゆく。

冬、南に飛ぶ雁を冷たい泉が映しても、
いざ雁が去ればその影も、また。

ゆえに君子は何かが起こったときに
初めて対応し、あとには引きずらぬ。


**&aname(84){84}
''清能有容,仁能善斷;''
''明不傷察,直不過矯。''
''是謂蜜餞不甜,海味不鹹,纔是懿。''

清廉にして包容力があり、
ひとを思いやれつつ果断であり、
察しの良さをあら捜しに用いず、
はっきりとした物言いで、
しかし誰かを傷つけもせぬ。

甘すぎぬ蜜菓子のような、
塩辛すぎぬ海産物のような。

ここまでのふるまいを備えられれば、
まあ、良き徳の人とは呼べようか。


**&aname(85){85}
''貧家淨掃地,貧女淨梳頭,''
''景花雖不豔麗,氣度自是風雅。''
''士君子一當窮愁寥落,奈何輒自廢弛哉。''

入念な清掃の行き届いた貧家の庭先、
丹念に駆使を通した貧家の女のもとどり。

これらは豪華絢爛でこそないが、
その心持は、まこと雅やかである。

ならば人士や君子も、
ひとたび零落の憂き目に遭ったところで、
どうして自暴自棄に振る舞えようか。


**&aname(86){86}
''涼翩塋過,忙處有受用;''
''靜中不落空,動處有受用;''
''暗中不欺隱,明處有受用。''

時間ができたときにも
ダラダラとせずにおれば、
いざ忙しくなったときにも
有用な働きができる。

変化少なきときにも
ぼうっとせずにおれば、
いざ事態が動き出したときにも
有用な働きができる。

人から見えぬところにても
欺瞞を働かずにおれば、
ひと目の前でも
堂々とした働きができる。


**&aname(87){87}
''念頭起處,纔覺向慾路上去,便挽從理路上來。''
''一起便覺,一覺便轉,''
''此是轉禍為福,起死回生的關頭,切莫輕易放過。''

心に欲望の芽が生まれたと
悟ったならば、すぐに道理に戻れ。

以降、ひとたび欲望がわいたとき、
即便に悟り、転じるのだ。

こうした心がけを
心の中に住まわせることで、
禍を福に転じさせ、
起死回生のきっかけを起こせる。

心に巣食ったささいな欲望を
ささいだからと見過ごしてはならぬ。


**&aname(88){88}
''靜中念慮澄遏じ心之真體;''
''涼聟羮殼詫董ぜ運看型慎 ''
''淡中意趣沖夷,得心之真味。''
''觀心證道,無如此三者。''

雑音なきところでの瞑想により、
得られるものが三つある。

思念を澄み渡らせ、心の形を見出す。
感情をたゆたせ、心の動きを見出す。
感覚を開け放ち、望ましき感覚を見出す。

この三つを知る以上に、
己の心を探るよき手立てはない。


**&aname(89){89}
''靜中靜非真靜,動處靜得來,纔是性天之真境;''
''樂纔樂非真樂,苦中樂得來,纔見心體之真機。''

静謐の中でだけでなく、
慌ただしく、騒がしい中にあってこそ
心を静かにできるのがよい。
そこまでくれば真境に至ったと言えよう。

楽しき場にあってだけでなく、
苦境の中にあってこそ
心を楽しませられるのがよい。
そこまでくれば身体のまことの働きを
見出せよう。


**&aname(90){90}
''捨己毋處其疑,處其疑,即所舍之志多愧矣;''
''施人無責其報,責其報,並所施之心俱非矣。''

ひとたび身を粉にして働くと
決めたならば、迷いは振り切らねばならぬ。
そうした迷いは、はじめの志を辱めよう。

ひとたび人に何かを施すと
決めたならば、見返りを求めてはならぬ。
助けたい、という想いすら無意味となろう。


**&aname(91){91}
''天薄我以福,吾厚吾以迓之;''
''天勞我以形,吾逸吾心以補之;''
''天阨我以遇,吾亨吾道以通之。天且奈我何哉。''

天よ。

我を冷遇するなら
徳もって迎え入れよう。

我に苦しみを与えるなら
卓越した心持ちにて補おう。

我に苦難を与えるなら、
我が道を胸を張って進もう。

天よ、
我をどうこうできると思ったか。


**&aname(92){92}
''貞士無心徼福,天即就無心處牖其衷;''
''憸人著意避禍,天即就著意中奪其魄。''
''可見天之機權最神,人之智巧何益。''

節操あるものは自ら幸いを求めぬ。
ならばこそ天はその衷心に幸いを導く。

ねじくれたものは殊更に禍を嫌う。
ならばこそ天はその性根に罰をもたらす。

見よ、至高なる天の働きを、
どう人の知恵にて越えようというのか。


**&aname(93){93}
''聲妓晚歲從良,一世之烟花無礙;''
''貞婦白頭失守,半生之消苦俱非。''
''語云:「看人只看後半截。」真名言也。''

若き日に荒淫の日々を過ごしたとて、
晩年に節度さえあれば、美しき生。

若き日に貞淑を貫いたとて、
晩年に節度を失えば、誉れは消える。

「人はその後半生さえ見ればよい」
と言う者があった。至言である。


**&aname(94){94}
''平民肯種施惠,便是無位的公相;''
''士夫徒貪權市寵,竟成有爵的乞人。''

爵位低き者でも
徳行を修め恵みを施さば
貴人たりえよう、ただ爵位が無いだけで。

爵位高き者でも
権勢に溺れ名声を求めれば
乞食たりえよう、ただ爵位が高いだけで。


**&aname(95){95}
''問祖宗之澤,吾身所享者是,當念其積累之難;''
''問子孫之福祉,吾身所貽者是,要思其傾覆之易。''

我が身はなにゆえここにあるのか。
先祖の血統がつながった故である。
その稀なる恩恵を忘れてはならぬ。

我が身は何をもたらすか。
子孫の血統の始まりである。
その途絶えやすさを忘れてはならぬ。


**&aname(96){96}
''君子而詐善,無異小人之肆惡;''
''君子而改節,不及小人之自新。''

いやしくも君子たらんと志しながら
善きものを欺こうとすれば、
その罪業は小人の悪事より重い。

いちど定めた志を撤回するのは
小人が変わらんとする決意よりも
重大である。


**&aname(97){97}
''家人有過,不宜暴怒,不宜輕棄。''
''此事難言,借他事隱諷之;今日不悟,俟來日再警之。''
''如春風解凍,如和氣消冰,纔是家庭的型範。''

家族の過ちは激しく叱責すべきではなく、
さりとて安易に放置してもならぬ。

もしそれを言いづらいのであれば、
別の事柄に仮託して諌めるのが良い。

その日のうちに家族が過ちに
気づかぬのであれば、日を改めて
改めて語るのが良い。

春風は凍てついた空気を緩め、
空気がゆるめば氷もまた溶け出す。

家族の過ちとは、
こうした接し方をするのが
まだ良いのかもしれない。


**&aname(98){98}
''此心常看得圓滿,天下自無缺憾之世界;''
''此心常放得酳拭づ群室無險側之人情。''

円満とすべきは我が心。
さすれば天下に不足も怒りもない。

''酳燭箸垢戮は我が心。''
さすれば天下の危険も退きやすい。


**&aname(99){99}
''澹泊之士,必為濃豔者所疑;''
''檢飾之人,多為放肆者所忌。''
''君子處此,固不可少變其操履,亦不可露其鋒芒。''

飾り気のない素朴な者は、
派手好みの者より疑われる。

自身を大きく主張しない者は、
主張したがりより忌まれる。

君子たらんとするならば、
目指した自らの歩みを
揺らがせるべきでない。

而して、己が才気を
目立たせるべきでもないのだ。


**&aname(100){100}
''居逆境中,周身皆鍼砭藥石,砥節勵行而不覺;''
''處順境內,滿前盡兵刃戈矛,銷膏糜骨而不知。''

逆境とは針や薬石のごときもの。
我が身の節度を整え、磨く。
しかし、そのことに気付かぬ。

順境とは向けられた刃物のごときもの。
我が心身はややも削れゆく。
しかし、そのことを悟れぬ。


**&aname(101){101}
''生長富貴叢中的,嗜慾如猛火,權勢如烈燄。''
''若不帶些清冷氣味,其火燄若不焚人,必將自爍矣。''

満ちた環境に生まれた者が抱く欲望は
猛火の如き激しさ。ましてや、
權勢欲ときたら、更に輪をかける。

そうした事実と向き合い、
いささかなりとも胸中に
清水冷風を呼び込まねば、
仮に他者を焼かずとも、
自らを焼くこととなろう。


**&aname(102){102}
''人心一真,便霜可飛,城可摧,金石可貫。''
''若偽妄之人,行骸徒具,真己已亡,''
''對人則面目可憎,獨居則形影自媿。''

ひとえに己が心を整えてさえおれば、
無茶と思えるようなこともなし得よう。
振り降りた霜を吹き払うであるとか、
その意気にて堅城を砕くであるとか、
あるいは鉱石に穴をあけるであるとか。

己の心を偽り続ければ、
ただの生きた革袋となり果てる。
そこに確かな自意識もおらず、
他者から嫌悪されるような
顔つきしか浮かべられず、
ひとりきりともなれば、肉体とその影が
「どうしてこうなってしまったのか」と、
ひたすらに恥じ入ってしまうのだ。


**&aname(103){103}
''文章做到極處,無有他奇,只是恰好;''
''人品做到極處,無有他異,只是本然。''

文章が極まれば特段の奇異な表現なく
ただ「良い」とだけ思わせる。

人品が極まれば特段の特殊な言動なく
ただ「然り」とだけ思わせる。


**&aname(104){104}
''以幻迹言,無論功名富貴,即肢體亦屬委形;''
''以真境言,無論父母兄弟,即萬物皆吾一體。''
''人能看得破,認得真,纔可以任天下之負擔,亦可脫世間之韁鎖。''

世は幻。
功名富貴を問うて何の意味があろう。
ただこの四肢が生えるのみ。

世は、ただある。
父母兄弟の別を問うて何の意味があろう。
そこに身体がある、それだけのこと。

虚飾の向こう、「ただ、ある」こと。
それだけが見出すべきことである。

そうしたことに気付けるものこそが
天下を見渡すことができるし、
世のしがらみより脱し得るのである。


**&aname(105){105}
''爽口之味,皆爛腸腐骨之藥,五分便無殃;''
''快心之事,悉敗身喪之媒,五分便無悔。''

口を喜ばす美味は身体を損ねる。
半ばほどを嗜めば害もあるまい。

心を快ばす言葉は仁徳を損ねる。
半ばほどに聞けば害もあるまい。


**&aname(106){106}
''不責人小過,不發人陰私,不念人舊惡。三者可以養,亦可以遠害。''

ささいなミス。
内に秘めておきたいこと。
昔のとが。

こうしたものを暴き立てずにおれば
徳は養え、害も遠ざけられよう。


**&aname(107){107}
''士君子''
''持身不可輕,輕則物能撓我,而無悠閑鎮定之趣;''
''用意不可重,重則我為物泥,而無瀟灑活潑之機。''

士や君子の心掛け。

行いは軽々ではならぬ。
他者に振り回され、余裕と重厚さを失う。

気配りは鈍重ではならぬ。
まごまごする内に瀟洒、闊達を失う。


**&aname(108){108}
''天地有萬古,此身不再得;''
''人生只百年,此日最易過。''
''幸生其間者,不可不知有生之樂,亦不可不懷虛生之憂。''

天地は無限の時を過ごすも、
この身に二度目、はない。

人生、わずか百年。
気付けばすぐに過ぎ去ろう。

我々は幸いにも、時を与えられた。

この喜びに気付けぬことのなきよう、
徒に虚無を抱え込むことのなきよう。


**&aname(109){109}
''怨因彰,故使人我,不若怨之兩忘;''
''仇因恩立,故使人知恩,不若恩仇之俱泯。''

人望は裏切られることで恨みに変わる。
ならばはじめから人望など感じさせず
人望も恨みも感じさせねば良い。

恩寵は裏切られることで憎しみに変わる。
ならばはじめから恩寵など示さず
恩寵も憎しみも覚えさせねば良い。


**&aname(110){110}
''老來疾病,都是壯時招的;''
''衰後罪孽,都是盛時作的。''
''故持盈履滿,君子尤兢兢焉。''

年老いたときの病は、
若いときの無茶が原因である。

権勢衰えて罪や災いを受けるのは
盛んなときの振舞いが原因である。

ゆえにもっとも状況の良いときほど
君子は警戒心を高め過ごすのである。


**&aname(111){111}
''市私恩,不如扶公議;''
''結新知,不如敦舊好;''
''立榮名,不如種隱;''
''尚奇節,不如謹庸行。''

個人的な恩を売るくらいなら、
お国の課題解決を手伝ったほうが良い。

交友関係を広げるくらいなら、
旧友との交流を篤くするのが良い。

栄誉をその身に浴びるくらいなら、
ひっそりと徳業を積むのが良い。

下手に目立つくらいならば、
中庸を保ち、慎むのが良い。


**&aname(112){112}
''公道正論,不可犯手,一犯,則貽羞萬世;''
''權門私竇,不可著腳,一著,則點汗終身。''

行論、正論を犯してはならぬ。
ひとたび犯せば、
その恥は末代まで伝えられよう。

権勢者の懐に歩み寄ってはならぬ。
ひとたび踏み入れれば、
恐怖と緊張に縛られ続けよう。


**&aname(113){113}
''曲意而使人喜,不若直躬而使人忌;''
''無善而致人譽,不若無惡而致人毀。''

信念を曲げ人を喜ばすくらいなら、
おのれの意志に従い
人に嫌われるほうがマシである。

善行なく栄誉を浴びるくらいなら、
無実の批判を受けるほうが
まだしもマシである。


**&aname(114){114}
''處父兄骨肉之變,宜從容,不宜激烈;''
''遇朋友交遊之失,宜剴切,不宜優游。''

目上の家族の異変に巡りあったら、
おとなしくやり過ごすのが良い。
歯向かうことに利はない。

友人らの過失に巡りあったら、
即座に諫めるのが良い。
のんびり見逃してはならぬ。


**&aname(115){115}
''小處不滲漏,暗處不欺隱,末路不怠荒,纔是個真正英雄。''

小事を疎かにせず、
誰も見ぬからと誤魔化さず、
どん底でも捨て鉢にならぬ。

まぁ実践は難しいが、
あるいは、実践ができたならば
英雄と呼ばれてもよいのやも知れぬ。


**&aname(116){116}
''千金難結一時之歡,一飯竟致終身之感。蓋愛重反為仇,薄極反成喜也。''

千金を傾けて
喜ばれないこともあれば、
たった一食で
一生感謝されたりもする。

下手に思い入れを強く持てば
却って憎しみを抱くこととなり、
こだわりを捨てるからこそ
思いがけぬ喜びに出会えるものだ。


**&aname(117){117}
''藏巧於拙,用晦而明,寓清之濁,以屈為伸,真涉世之一壺,藏身之三窟也。''

巧みさは拙さの内にしまうのが良い。
暗愚さの振りをする聡明さ、である。

清きは濁れるに仮住まいさせるが良い。
伸びるためにはまず屈せねばならぬ。

こうした韜晦こそが世を渡るにあたり、
ちょっとしたシェルター、
立ち返るべき原点となろう。


**&aname(118){118}
''衰颯的景象,就在盛滿中;''
''發生的機緘,即在零落內。''
''故君子居安,宜操一心以慮患;處變,當堅百忍以圖成。''

衰微のきざしは、満ち足りたところにある。
再生のきざしは、こぼれ落ちた中にある。

ゆえに君子は
やすらかなときにひたるさ危機に備え、
変事にて耐え忍び、達成の絵図を描く。


**&aname(119){119}
''驚奇喜異者,無遠大之識;''
''苦節獨行者,非恆久之操。''

目新しいものに浮つく者に
遠大なるものを知るすべはない。

自身のやり方に固執する者に
変わらぬ本質を学ぶすべはない。


**&aname(120){120}
''當怒火慾水正騰沸處,明明知得,又明明犯著。''
''知的是誰,犯的又是誰,此處能猛然轉念,邪魔便為真君矣。''

烈火のごとき怒り、洪水のごとき欲望。
ひとたびこうしたものに染まれば、
それがあやまちとわかりつつも、
あやまちを犯してしまうものである。

あやまちであると知るならば。
ならば、その先に何がある。

それに気付けば、獰猛なる思いも
邁進の力へと換えること叶おう。


**&aname(121){121}
''毋偏信而為奸所欺,''
''毋自任而為氣所使。''
''毋以己之長而形人之短,''
''毋因己之拙而忌人之能。''

凝り固まった思考をすれば、
易易と詐欺師に引っ掛けられよう。

万能感がいきすぎれば、
余計な手出し口出しで災いをまねこう。

自らの美点をもとに他者を蔑むのも、
自らの無能をもとに他者を妬むのも、
ことほど無益なこともない。


**&aname(122){122}
''人之短處,要曲為彌縫,如暴而揚之,是以短攻短;''
''人有頑的,要善為化誨,如忿而疾之,是以頑濟頑。''

ひとの短所は縫い合わせるよう
導いてやるのが良い。
指摘し直させようとしても、
短気で短所が治るだろうか。

頑迷なる者はものの例えにて
婉曲に導くと良い。
怒り、憎んでみたところで、
頑迷が頑迷を救うだろうか。


**&aname(123){123}
''遇沈沈不語之士,且莫輸心;''
''見悻悻自好之人,應須防口。''

あまりに無口なものに、
そうそう内心をさらけ出してはならぬ。

怒りっぽく、自己愛強きものと、
そうそう言葉を交してはならぬ。


**&aname(124){124}
''念頭昏散處,要知提醒;''
''念頭喫緊時,要知放下。''
''不然恐去昏昏之病,又來憧憧之擾矣。''

思考がぼんやりとしているときに
気を引き締めねばならぬよう、
気持ちが張り詰めているときには
心を緩める必要がある。

気抜けの状態をどうにかしようとして
いたずらに気忙しさを抱えては、
元も子もあるまい。


**&aname(125){125}
''霽日青天,倏變為迅雷震電;''
''疾風怒雨,倏轉為朗月晴空。''
''氣機何嘗有一毫凝滯,''
''太虛何嘗有一毫障塞,''
''人之心體,亦當如是。''

一面の晴天がやにわに嵐となるように、
暴雨の荒天がやにわに晴れ上がるように、
精気の流れ、はたまた万物は
とどまらず、塞がらぬ。

人の身体もまた、かく在りたいものだ。


**&aname(126){126}
''勝私制慾之功,''
''有曰識不早,力不易者,''
''有曰識得破,忍不過者。''
''蓋識是一顆照魔的明珠,力是一把斬魔的慧劍,兩不可少也。''

私欲に打ち勝つための術について。

あるものが語った。
早めに会得できねば
打ち勝つための気力を養えぬ、と。

あるものが語った。
かりに知識として学べど
往々にして耐えきれぬものだ、と。

思うに私欲に打ち勝つ術とは
魔をあぶり出す数珠であり、
私欲に打ち勝つ力とは
魔を払う護法の剣なのだろう。

どちらも少量では無意味である。


**&aname(127){127}
''覺人之詐,不形於言;''
''受人之侮,不動於色。''
''此中有無窮意味,亦有無窮受用。''

欺かれた、と口にする必要もなく、
侮られた、と怒りを浮かべる必要もない。

さすれば図りしれぬ人物と思われ、
とてつもなき役割を請け負えるのだ。


**&aname(128){128}
''垉婪さ臉煅煉豪傑的一副鑪錘,''
''能受其煅煉,則身心交益,''
''不受其煅煉,則身心交損。''

逆境や貧困はひとを鍛える。
鋼を打つ、鎚のようなものだ。

受けることでひとの背筋は通るが、
受けることから逃げれば背筋は緩む。


**&aname(129){129}
''吾身一小天地也,使喜怒不愆,好惡有則,便是燮理的工夫;''
''天地一大父母也,使民無怨咨,物無氛疹,亦是敦睦的氣象。''

わが身はひとつの天地である。
喜怒にせよ好惡にせよ自然に逆らわねば、
自ずと物事を収められるものである。

天地はそのものが父母である。
人々が恨みから解き放たれ、
万物にトラブルなくば、
皆が厚く睦まじく過ごせよう。



**&aname(130){130}
''害人之心不可有,防人之心不可無,此戒疏於慮也;''
''寧受人之欺,毋逆人之詐,此儆傷於察也;''
''二語並存,精明而渾厚矣。''

他者を侵害すべきではなく、
また他者の言葉より心を守らねばならぬ。
諸トラブルより身を守る処方である。

他者より欺かれることがあるにせよ、
欺かれぬよう気を張り続けるのも良くない。
自分から傷つきに行ってはならぬ。

どちらかに偏りすぎないよう、
バランスを保ちおくことができれば、
明察にしてどっしりとした人であれる。


**&aname(131){131}
''毋因群疑而阻獨見,''
''毋任己意而廢人言,''
''毋私小惠而傷大體,''
''毋借公論以快私情。''

周囲に流されて
自らの見識を疑ってはならぬ。
自らの意見に固執して
無闇に他者を否定してもならぬ。

目先のささやかな利益のために
遠き先の目途を見失ってはならぬ。
虎の威を借りて
自身の大きさを勘違いしてはならぬ。


**&aname(132){132}
''善人未能急親,不宜預揚,恐來讒譖之奸;''
''惡人未能輕去,不宜先發,恐遭媒孽之禍。''

善き人は、急ぎ足で
親しくなろうしても叶わぬ。
また軽々に称揚してもならぬ、
善き人に讒言がまとわりつこうから。

惡しき人を、急ぎ足で
退けることは叶わぬ。
また軽々に遠ざけようとするのも危うい、
その者より冤罪がもたらされようから。


**&aname(133){133}
''青天白日的節義,自暗室屋漏中培來;''
''旋乾轉坤的經綸,自臨深履薄處繅出。''

晴れ渡った空に輝く太陽のごとき節義も、
暗き部屋でひとり沈思した時間より
発されるものであろう。

天下を刷新しうる際立った政策とて、
深き沼のフチ、薄い氷の上を歩くが如き
細心よりたぐり出されよう。


**&aname(134){134}
''父慈子孝,兄友弟恭,縱做到極處,''
''俱是合當如此,著不得一毫感激的念頭。''
''如施者任,受者懷恩,便是路人,便成市道矣。''

父は子を慈しみ、子は孝行を捧ぐ。
兄は弟を友のごとく扱い、
弟は兄に恭しく仕える。

こうしたことが万全に為し得たところで、
それはあくまで当然のこととせねばならぬ。

そこに多少でも感謝、感激の念が
混じりこむのであれば、それはもはや、
道々に行き会う人、あるいは
市場で取引する相手でしかない。


**&aname(135){135}
''有妍必有醜為之對,我不誇妍,誰能醜我;''
''有潔必有污為之仇,我不好潔,誰能污我。''

美事と悪事は対をなす。
我が振舞を殊更に誇り飾らねば、
誰が私に醜聞を
まとわりつかせられようか。

潔癖さは汚らしさと対をなす。
我がこだわりを殊更に示さねば
誰が私のこだわりを
損ねること叶おうか。


**&aname(136){136}
''炎涼之態,富貴更甚於貧賤;''
''妒忌之心,骨肉尤狠於外人。''
''此處若不當以冷腸,御以平氣,鮮不日坐煩惱障中矣。''

感情の起伏、その激烈さは
資産量に比例しがちである。

妬み、恨む気持ちの激烈さは
近しきさに比例しがちである。

人々のこうした感情のさなかに
身を置かねばならないとき、
自らの心胆をよく冷ましておき、
気持ちを平静に保ちおかねば、
他者の煩悩に振り回されぬ、
悩み少き日なぞ、まともに訪れるまい。


**&aname(137){137}

''功過不容少混,混則人懷惰墮之心;''
''恩仇不可太明,明則人起攜貳之志。''

功績は功績として、過ちは過ちとして
峻別すべきである。曖昧となれば
ひとはまともに動こうとしなくなろう。

人の好き嫌いは表に出してはならぬ。
無闇な反感は事業を転覆させかねぬ。


**&aname(138){138}

''爵位不宜太盛,太盛則危;''
''能事不宜盡畢,盡畢則衰;''
''行誼不宜過高,過高則謗興而毀來。''

地位栄誉は高すぎぬほうが良い。
高すぎれば災いを招き入れようから。

能力をひけらかし過ぎぬほうが良い。
便利に使われるのみであるから。

あまり潔癖に振る舞わぬほうが良い。
過ぎれば誹謗中傷の的になろうから。


**&aname(139){139}

''惡忌陰,善忌陽,''
''故惡之顯者禍淺,而隱者禍深;''
''善之顯者功小,而隱者功大。''

悪は目立たぬことを嫌い、
前は目立つことを嫌う。

目立つ悪の害は小さく、
目立たぬものの害は大きい。

目立つ善の功績は小さく、
目立たぬものの功績は大きい。


**&aname(140){140}

''者才之主,才者之奴。''
''有才無,如家無主而奴用事矣,''
''幾何不魍魎猖狂。''

徳が才の主、
才は徳の奴婢であらねばならぬ。

その逆は、家の主がおらず執事に
好き勝手をさせるようなものである。

誰が家を獣の巣にしたいというのだ。


**&aname(141){141}
''鋤奸杜倖,要放他一條去路。''
''若使之一無所容,譬如塞鼠穴者,''
''一切去路都塞盡,則一切好物俱咬破矣。''

悪巧みするもの、おべっか使いを
いなくしたいならば、
逃げ道を残しておくべきである。

囲師は周せず、を守らなければ、
窮鼠とて猫を噛むものである。


**&aname(142){142}
''當與人同過,不當與人同功,同功則相忌;''
''可與人共患難,不可與人共安樂,安樂則相仇。''

失敗を共有せよ、成功は共有してはならぬ。
功を同じくするものは猜疑し合う。

苦難は共有せよ、安楽は共有してはならぬ。
安楽を独占せんと排除し合い始める。


**&aname(143){143}
''士君子,貧不能濟物者,''
''遇人癡迷處,出一言提醒之;''
''遇人急難處,出一言解救之,''
''亦是無量功。''

士人、君子たらんと努めれば
財産なぞ抱えられようはずもない。
ならば財で人を救えるはずもない。

しかし進むべき先に迷うものを、
苦難に行き当たり、苦しむものを、
その言葉にて救い出すことが叶う。

この力をどう財貨に例えられようか。


**&aname(144){144}
''飢則附,飽則颺;燠則趨,寒則棄,人情通患也。''
''君子宜淨拭冷眼,慎毋輕動剛腸。''

腹が減ったら寄り、
腹が満ちたら去る。
こちらが豊ならばへつらい、
こちらが貧しくばあしらう。

所詮ひとなぞこのようなものである。

君子たるもの、ただその目を磨き、
冷静でおり、腹の熱に浮かされた
軽挙なぞせぬようしたいものである。


**&aname(145){145}
''隨量進,量由識長。''
''故欲厚其,不可不弘其量;欲弘其量,不可不大其識。''

徳に伴い度量が、
度量に伴い見識が広がる。

徳を高めたければ度量が、
度量を高めたければ見識が
不可欠である。


**&aname(146){146}
''一鐙熒然,萬籟無聲,此吾人初入宴寂時也;''
''曉夢初醒,群動未起,此吾人初出混沌處也。''
''乘此而一念迴光,炯然返照,''
''始知耳目口鼻皆桎梏,而情慾嗜好悉機械矣。''

またひとつ明かりが消え、
街からあらゆる音が消える。
はじめて我が意識が、
安らいだ静寂に落ちてゆく。

明け方の夢より覚めるに、
街に未だ人々の気配もない。
はじめて我が意識が、
混沌のもとへと出てゆく。

こうした転機にて
我が心に光を当てれば、
あらゆるものが皓然と浮かび上がる。

このときようやく我が感覚が
もろもろがんじがらめとなっており、
なにゆえ情欲や好き嫌いの
奴隷になってしまうのかを悟るのだ。


**&aname(147){147}
''反己者,觸事皆成藥石;''
''尤人者,動念即是戈矛。''
''一以闢眾善之路,一以導諸惡之源,相去霄壤矣。''

自責の念を抱く者は
接するすべてを教訓に変える。

他責の念を抱く者は
接するすべてを傷つける。

前者には多くの善が集まり、
後者には多くの悪が集まる。
それは天地の開きにも似る。


**&aname(148){148}
''事業文章隨身銷毀,而精神萬古如新;''
''功名富貴逐世轉移,而氣節千載一日。''
''君子信不當以彼易此也。''

どれだけ事業や学問における
功績の獲得に躍起になったところで、
死ねばそれまでである。
しかし自らを高めんとする心は、
未来永劫を新たなものとしてみせる。

どれだけ功名や富貴における
繁栄の獲得に躍起になったところで、
世の基準が変わればそれまでである。
しかし自らを高めんとする心は、
同じ基準で自らを磨き続ける。

君子たるもの、表向きの繁栄が
自らの発展の代わりになるとは
まるで信じておらぬのである。


**&aname(149){149}
''魚網之設,鴻則罹其中;''
''螳螂之貪,雀又乘其後。''
''機裏藏機,變外生變,智巧何足恃哉。''

魚網に大きな鳥がかかることもあり、
獲物を狙うカマキリの後に
雀がいたりもする。

転機の中に別の転機が隠れ、
変化の向こうに別の変化が生じもする。

我が知恵や技術など、
どれだけ役に立ちきれようか。


**&aname(150){150}
''作人無點真懇念頭,便成個花子,事事皆虛;''
''涉世無段圓活機趣,便是個木人,處處有礙。''

ひととして生きるに当たり、
多少なりともまごころあるふるまいが
できないと、乞食となるしかない。
どこに生きる実感を抱くというのか。

世の中を泳ぐに当たり、
多少なりとも他者に合わせられねば
木偶扱いは免れられぬ。
障り多き生涯を送りたいのか。


**&aname(151){151}
''水不波則自定,鑑不翳則自明,故''
''心無可清,去其混之者,而清自現;''
''樂不必尋,去其苦之者,而樂自存。''

かき混ぜなければ水はいつか平らかとなり、
光を妨げなければ鏡は自ずと明るい。

心の混濁が抜ければ心清らかとなり、
抱える苦しみが抜ければ楽しみも蘇ろう。


**&aname(152){152}
''有一念犯鬼神之禁,一言而傷天地之和,''
''一事而釀子孫之禍者,最宜切戒。''

ほんの気まぐれが世のことわりを乱し、
ひとつの失言が場の調和を損ね、
思いがけぬ手違いが子孫への災いとなる。

重にわきまえおかねばならぬ。


**&aname(153){153}
''事有急之不白者,酣薫深明,毋躁急以速其忿;''
''人有操之不從者,縱之或自化,毋操切以益其頑。''

事態究明を焦れば焦るほど
明白とならないものである。
鷹揚に構えた方が、
えてして究明は早いものである。

無駄に急かして
怒りを買う必要もあるまい。

無理に人を操ろうとしても
従わないものとはいるものである。
やりたいようにやらしておれば
えてして変化するものである。

下手にコンロトールを強めて
頑なさをつのらせることもあるまい。



**&aname(154){154}
''節義傲青雲,文章高白雪'',
''若不以性情陶鎔之,終為血氣之私,技能之末。''

天井知らずの道徳心とおごり、
天衣無縫の表現力と高ぶる者が
人間性的に未熟であれば
結局はただの自己愛の奴隷、
小手先の芸人でしかない。


**&aname(155){155}
''謝事當謝於正盛之時,''
''居身宜居於獨後之地。''
''謹須謹於至微之事,''
''施恩務施於不報之人。''

辞去は全盛時になすべし。
居場所は最後尾が良い。
徳行は目立たぬようになせ。
報いを期待する恩は恩ではない。

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