晋末宋初に関するエピソード群を様々な形で参照できる wiki です。

1

棲守道者,寂寞一時;
依附權勢者,淒涼萬古。
故達人觀物外之物,思身後之身,
寧受一時之寂寞,毋取萬古之淒涼。

道心に従えば
ひとときの孤独のなかに陥るも、
權勢にすがりつけば
永劫のすさんだ心を得る。

故に道徳をよく修めたものは
目先の物質的な栄華に囚われず、
我が身を養うことに専心する。

ひとときの孤独を受け入れよ。
永劫のすさんだ心を得てはならぬ。

2

涉世淺,點染亦淺;歷事深,機械亦深。
故君子與其練達,不若樸魯;與其曲謹,不若疏狂。

世との関わりを浅くすれば、
世俗に浅く染まるだけで済む。

物事に深く関われば、
骨の髄まで俗事に染まる。

だから君子たるもの小器用であるより
うすらぼんやりしていた方が良く、
ばか丁寧であるくらいなら
ぶっきらぼうなくらいの方が良い。

3

君子之心事,天青日白,不可使人不知。
君子之才華,玉韞珠藏,不可使人易知。

君子の心掛け、思いのごときは
天が青く日が皓然たるに似る。
それを人々が知らずにおれぬ。

君子の才覚、実力のごときは
玉隠され珠しまわれるに似る。
それを人々は容易に悟れぬ。

4

勢利紛華,不近者為潔,近之而不染者為尤潔;
智械機巧,不知者為高,知之而不用者為尤高。

絢爛たる栄華に近寄らぬものは
潔くあるが、
最も潔き者は栄華の中にあり、
なおも染まらぬものである。

権謀術数に近付かぬものは
高みにあるが、
最も高みにあるものは権謀術数の中
なおも取り込まれぬものである。

5

耳中常聞逆耳之言,心中常有拂心之事,
纔是進修行的砥石。
若言言耳,事事快心,便把此生埋在鴆毒中矣。

それを聞けば
不愉快になるようなことをこそ聞こう。
それに触れれば
不愉快になるようなことにこそ触れよう。

そこには、自分の欠点を磨き直す
重要なヒントがあるのだ。

この耳を粗雑に喜ばせ、
この心を粗雑に喜ばせる言葉は、
私の行かんとする先に
破滅を用意するのだ。

6

怒雨疾風,禽鳥戚戚;
霽日光風,草木欣欣。
可見天地不可一日無和氣,人心不可一日無喜神。

土砂降りの雨、吹き荒れる風。
鳥は大小なく身をすくめる。

やがて晴れ渡り、爽やかな風。
草木はその枝葉を茂らせる。

天地に調和の取れておらぬ日など
一日もなく、
人の心に喜びなき日など
一日もなきはずである。

7

醲肥辛甘非真味,真味只是淡;
神奇卓異非至人,至人只是常。

濃い味付け、脂の載った肉。
辛さや甘さ、濃厚な味。
これらは本当の味わいではない。
本当の味わいは恬淡な中にある。

聡明さ、特殊な振る舞い。
ずば抜け、他と異なること。
これらは至人ではない。
本当の至人は常に平静でいる。

8

天地寂然不動,而氣機無一息少停;
日月晝夜奔馳,而貞明則萬古不易。
故君子了要有喫緊的心思,忙處要有悠療趣味。

天地のありようは
いつまでも変わることもないのだが、
さりとて留まることがない。

太陽や月は
日夜動き回るも、
その輝かしさが変わることもない。

このため、君子は穏やかな時に
いつ急時になっても対応できるよう備え、
あくせくと動き回る時には既に
のんびりとした時間を思うのである。

9

夜深人靜,獨坐觀心,
始覺妄窮而真獨露,每於此中得大機趣;
既覺真現而妄難逃,又於此中得大慚忸。

真夜中、人気《ひとけ》のない場所で瞑想する。

気付くのだ。

迷妄が行き着くだけ行き着けば、
あとは裸の自分に
いつまでも向き合うしかないのだ、と。
なんとも得難き気付きであることか。

そしてまた、
理解するのだ。

目先のあれこれに翻弄されれば、
逃れようのない目先のあれこれに
いつまでも心を乱され続けるのだ、と。
なんとも恥ずべき失態であることか。

恩裏由來生害,故快意時,須早回頭;
敗後或反成功,故拂心處,莫便放手。

片時寵愛を受けたとて、
その裏に害意も生まれ得る。
うまく行っているときほど、
我が身を反省すべきである。

えてして失敗の後に、
成功のいとぐちが掴めるものである。
上手く行かぬからと言って、
早々に諦めてはならぬ。

藜口莧腸者,多冰清玉潔;
袞衣玉食者,甘婢膝奴顏。
蓋志以澹泊明,而節從肥甘喪也。

アカザやスベリヒユを煮込んだ
質素なスープで腹を満たすものは、
多くが氷や宝玉の如き清らかさを示す。

きらびやかな服を着、
豪華な飯を楽しむものは
女奴隷がひざまずいたり、
男奴隷が媚びへつらうかのような顔つきを、
より上位の者へと向けることに
甘んじねばならぬ。

思うに、気高き志とは
質素さが生むもののようであるが、
一度贅沢に慣れてゆけば、
徐々に失われるものなのだろう。

面前的田地要放得遏せ反楊吃塋診恵掘
身後的惠澤要流得長,使人有不匱之思。

いま自らと関わり合いになる人々には
包み隠さぬ心持ちから寛大さを得、
不公平感を抱かせぬようにしたいものだ。

後世の人々に対しては
生活に困らぬだけの資産を残し、
貧乏にあえがぬようにさせたいものだ。

徑路窄處,留一步與人行;
滋味濃的,減三分讓人嗜。
此是涉世一極安樂法。

小道で人に行きあったなら、
一歩道を譲るのが良い。

深い旨みの食べ物に巡りあったなら、
三割を相伴者に譲るのが良い。

これこそが人の世を渡り歩くための
究極の極意のひとつである。

作人無甚高遠事業,擺脫得俗情,便入名流;
為學無甚甕弭夫,減除得物累,便超聖境。

人としてあれば、
あれこれと壮大な事業を
手がけようとしなくとも、
余計な雑念さえ捨て去れれば、
ひとかどのスキルは得られるものだ。

ものごとを学ぶのに、その手立てを
あれこれ工夫しようとせずとも、
余計な俗事から遠ざかれさえすれば
一頭地も抜けられはするものだ。


交友須帶三分俠氣,做人要存一點素心。

友との交わりにも利害を交えざるを得ぬ。
しかし三割は利害を超えた思いを抱かん。

人との交わりにも利害を求めざるを得ぬ。
しかしどこかには純粋な思いを残さん。


寵利毋居人前,業毋落人後;
受享毋踰分外,修為毋減分中。

寵愛、利益を我先にと求めぬよう。
我先にと求めるべきは徳業である。

自分の分を弁えぬ利益を得ぬように。
自分の分にも満たぬ修練で飽きぬように。


處世讓一步為高,退步即進步的張本;
待人邂貶是福,利人實利己的根基。

進みたいと思う道筋を他者に譲る。
かえって将来、より高き境地にたどり着ける。

ひとの仕事の成果にケチをつけない。
かえって将来、この仕事の成果が
より高く評価されるのだろう。

蓋世功勞,當不得一個矜字;彌天罪過,當不得一個悔字。

世に轟かんばかりの功績とは、
欠片ほどにも自慢の心が混じらぬ。

天を揺るがさんばかりの罪業とは、
欠片ほどの後悔もない。

完名美節,不宜獨任,分些與人,可以遠害全身;
辱行污名,不宜全推,引些歸己,可以韜光養。

名声や栄誉は
独り占めしないほうが良い。
幾分でも分散ができれば、
リスクも分散され、
危地にも遭いにくいものである。

醜態や汚名は
自分でも引き受けるのが良い。
幾分でも引き受けておけば
下手に名声も高まらぬし、
内なる美徳をも磨きうる。

事事留個有餘不盡的意思,
便造物不能忌我,鬼神不能損我。
若業必求滿,功必求盈者,
不生內變,必召外憂。

なにごとかに取り組むのであれば、
全身全霊を捧げよう、と
意気込んではならぬ。

ほどほどのところで
乗り切れよう振る舞うべし。

創造主もそんなやつをこき使おうと
企まないであろうし、
先祖の霊もあえてお前を克己精励に
駆り立てないであろう。

下手に功遂げ名を究めんとすれば、
あるいは内面は変わらないやも知れぬ。
しかし外からの災いを招きかねぬ。

家庭有個真佛,日用有種真道。
人能誠心和氣,愉色婉言,
使父母兄弟間,形骸兩釋,
意氣交流,勝於調息觀心萬倍矣。

個々人の信仰、個々人の技能。
どうして粗雑に裁定できようか。

ならばこそ、
他者の思いに正面から向き合い、
その感情に逆らわず寄り添い、
そのやることなすことを楽しみ、
紡ぎ出される言葉に喜ぶのが良い。

そうすれば、親兄弟の間の
心体に渡る緊張もほどけようし、
意思疎通も取れやすくなろう。

道教に言う調息、仏教に言う觀心。

……なんぞをいちいち追い求めるより、
他者に素直に向き合えたほうが
心の平安度は一万倍以上高い。

好動者,雲電風燈;嗜寂者,死灰槁木。
須定雲止水中,有魚躍鳶飛氣象,纔是有道的心體。

活動的なものは
稲光であるか風に吹かれる灯火のよう。
静寂を愛するものは
燃え尽きた灰であるか枯れ木かのよう。

ひとたるもの、水面に雲を映し出し、
水面下では魚たちがいきいきと踊り、
鳶たちの悠々と飛ぶ様をもまた映す。

こうしたありようこそが、
道を合致した心地である、
と言えるのではないか。

攻人之惡,毋太嚴,要思其堪受;
教人之善,毋過高,當使其可從。

人の落ち度を指摘するのに
厳しくしすぎてはならない。
相手がどこまで受け止められる
器量なのかを見極めねばならない。

人に良きことを教えるのに
あまり高度すぎてはならない。
相手がどこまで為し遂げられる
実力なのかを見極めねばならない。

糞蟲至穢,變為蟬而飲露於秋風;
腐草無光,化為螢而耀采於夏月。
固知潔常自污出,明每從晦生也。

セミの幼虫は穢土にのたうつが、
秋口にもなれば木に止まり、露を飲む。

枯れ草積もる中に光はないが、
そこから生まれるホタルは夏の夜に瞬く。

我々は知っているではないか、
潔きものは汚れより生まれ出で、
明るきものは闇の中から生まれる、と。

矜高倨傲,無非客氣,
降伏得客氣下,而後正氣伸;
情欲意識,盡屬妄心,
消殺得妄心盡,而後真心現。

自矜傲慢は借り物の強さである。
そうした虚勢から離れ、
初めて自らを満たしうる。

情欲や知識欲は妄執である。
こうした妄執をかき消し、
初めて自らの心を覗き込める。

飽後思味,則濃淡之境都消;
色後思淫,則男女之見盡絕。
故人常以事後之悔悟,
破臨事之癡迷,則性定而動無不正。

食べ過ぎた後に
何がうまい、まずいなど
考えるだろうか。

オセッセセセでイッた直後、
誰が素敵、誰とやりたいなど
明確に考えられるだろうか。

何かをやった、やりすぎた、
そういった時の後悔を覚えておき、
あの気持ちを追体験したくない、
と思って振る舞えば、
まぁ、ポカも減るのではないか。

居軒冕之中,不可無山林的氣味;
處林泉之下,須要懷廊廟的經綸。

政や商売のただなかにあっても、
山林の中で佇むがごとき心地を
忘れてはならぬ。

山林に佇んでいるときにも、
家業国家の運営にまつわる思考を
止めてはならぬ。

處世不必邀功,無過便是功;
與人不求感,無怨便是。

世間を渡り歩きたいのであれば、
功績を立てるより、
失敗がないよう務めよ。
それが結果として功績となる。

人と交わりあいたいのであれば、
こちらがもたらした恩恵を
下手に主張するよりも、
鷹揚な態度を示したほうが
より徳深き振る舞いと見られよう。

憂勤是美,太苦則無以適性怡情;
澹泊是高風,太枯則無以濟人利物。

滅私奉公は、まあ美徳である。
とはいえその苦しみは、
我が心をどこまで楽しませるだろうか。

無為恬淡も、まあ高潔である。
とはいえその無欲さは
どれだけ世の人々を救い出せようか。

人至事窮勢蹙,宜原其初心;
士當行滿功成,要觀其末路。

携わる事業が行き詰まったなら、
何故それをやりたかったか、を思い出せ。

携わる事業が成功したのなら、
行き着く先が何なのか、を想像しろ。

富貴家宜邯,而反忌刻,
是富貴而貧賤其行矣,如何能享?
聰明人宜斂藏,而反耀,
是聰明而愚懵其病矣,如何不敗?

富貴なるものは寛容であるべきだが、
往々にして猜疑心が強い。
資産はともあれ心根が貧しければ、
どうして豊かさを享受できようか。

聡明なるものは恭謙であるべきだが、
往々にして虚栄心が強い。
聡明さを愚かしさの病に浸り切らせ、
どうして禍に巻き込まれずにおれようか。

居卑而後知登高之為危,
處晦而後知向明之太露;
守靜而後知好動之過勞,
養默而後知多言之為躁。

低地におれば、高く登った先が
危険であることに気づける。
暗地におれば、まばゆき場所が
諸処を暴き立てると気づける。

静謐を貫けば、慌ただしく動くことで
労ばかりが積み重なると気づける。
沈黙を貫けば、賢しらに喋ることで
面倒ばかりが舞い込むと気づける。

放得功名富貴之心下,便可脫凡;
放得道仁義之心下,纖可入聖。

功名富貴を求める気持ちを捨て去れば
凡愚の境地からは脱し得ようか。

道仁義に執着する気持ちを捨て去れば
多少は聖人の境地も知り得ようか。

利慾未盡害心,意見乃害心之蟊賊;
聲色未必障道,聰明乃障道之藩屏。

金銭欲や物欲が必ずしも
素心を損ねさせる訳でもない。
それらを得んとする思考や見識が
素心を蝕まんとする害虫である。

名声欲や色欲が必ずしも
探求を損ねさせる訳でもない。
それらを得んとする視野や観察が
探求を妨げんとする障壁である。

人情反復,世路崎嶇。
行不去處,須知退一步之法;
行得去處,務加讓三分之功。

人生の旅路はままならぬ、険しきもの。

行く先が塞がっているときには
一歩下がるのもまた良い。

行く先が開けていたとしても
三割ほどを他者に譲るのが良い。

待小人,不難於嚴,而難於不惡;
待君子,不難於恭,而難於有禮。

小人と接するときにその短所を
あげつらって叩くのは簡単だが、
それで憎まれないかといえば、難しい。

君子と接するときに敬意持って
恭しく接するだけなら簡単だが、
それだけで対等の礼を
してもらえるかと言えば、難しい。

寧守渾噩而黜聰明,留些正氣還天地;
寧謝紛華而甘澹泊,遺個清名在乾坤。

素朴さを保ち、聡明さを退けよ。
斯くして天地の間で正気を保ち置ける。

絢爛さに背を向け、淡白さを貫け。
斯くして天地の間で清名を保ち置ける。

降魔者,先降自心,心伏,則群邪退聽;
馭埃圈だ蔡悩−罅ぽ翳拭ぢС引塢埒。

邪悪なもの、邪なるものを
退けたいのであれば、
そうした思いに逸る自らの心を
まず鎮めるように。
さすれば邪なるものらも
自ずと退くものである。

一方的に我を押し付けてくるものを
抑え込みたいのであれば、
抑え込まんと昂ぶる気持ちを
まず鎮めるように。
さすればいちいち他人の都合に
左右されずに済むものである。

教弟子,如養閨女,最要嚴出入,謹交遊。
若一接近匪人,是清淨田中,
下一不淨種子,便終身難植嘉禾矣。

弟子の教育は箱入り娘の養育に似る。
何よりも人の出入りを監視し、
交友関係を絞らねばならぬ。

ろくでもない輩とつるませれば
それは掃き清めた良田に
毒草の種を蒔くようなものである。
永劫に良き実りは望めるまい。

慾路上事,毋樂其便而姑為染指,一染指便深入萬仞;
理路上事,無憚其難而稍為退步,一退步便遠隔千山。

欲望に基づいた行動は、
手っ取り早いからと、
あまり気軽に手を染めてはならぬ。
ひとたび欲に従い手を染めれば、
あとは安逸の万尋の谷を
転げ落ちるばかりである。

研鑽、探求ごとは
いささか大変だからと
あまり安易に手を抜いてはならぬ。
一度手抜きの味を覚えれば、
克己を積み重ねる者には
はるか千の山の向こうに
置き去られよう。

念頭濃者,自待厚,待人亦厚,處處皆濃;
念頭淡者,自待薄,待人亦薄,處處皆淡。
故君子居常嗜好,不可太濃豔,亦不宜太枯寂。

思考を濃厚にしようとするものは
自らに対しても、他者に対しても
ずいぶんと色濃く考える。

思考を淡泊にしようとするものは
自らに対しても、他者に対しても
ずいぶんと淡泊に考える。

君子が取るべきは
常に濃すぎず、薄すぎず、
ちょうどの塩梅を保つことである。

彼富我仁,彼爵我義,君子固不為君相所牢籠;
人定勝天,志壹動氣,君子亦不受造物之陶鑄。

彼が富や地位を誇るなら、
私は仁や義こそを誇ろう。

君子たるもの、地位のためになど
がんじがらめになりはせぬ。

強き志は天意をも揺らがし、
人の気をも動かしうる。

君子はまた、世俗のしがらみにも
がんじがらめになりはせぬ。

風恬浪靜中,見人生之真境;
味淡聲希處,識心體之本然。

穏やかな風、ささやかな波。
ふと人生を得心する。

かすかな味、ほのかな音。
感覚が研ぎ澄まされる。

立身不高一步立,如塵裏振衣,泥中濯足,如何超達;
處世不退一步處,如飛蛾投燭,羝羊觸藩,如何安樂。

ひとたび栄達を志ざしながらも
栄達叶わずば
砂埃のなかで袖を振り、
汚泥で足を洗うようなもの。
競争の中、悟りは得られようか。

ひとたび世に生まれ落ち、
譲れるものも譲らずば
ロウソクに飛び込む蛾や
生け垣に突っ込む牡羊がごとき末路たらん。
その先に安息の日々はあろうか。

學者要收拾精神,併歸一路。

修而留意於事功名譽,必無實詣;
讀書而寄興於吟詠風雅,定不深心。

学問を志す者であれば、学びに専心し、
脇目を振ってはならぬ。

仮に、である。

徳業を功績や名誉のためになせば
その下心が修養を遠ざけよう。

学問とて歌心や風雅に気を取られれば
その内心の深化は進まぬのだ。

人人有個大慈悲,維摩屠劊無二心也;
處處有種真趣味,金屋茅簷非兩地也。
只是慾蔽情封,當面錯過,便咫尺千里矣。

ひとはおのおの慈悲を抱くものである。
これは偉大な仏僧から
屠殺人、処刑人でも変わらない。

住処はおのおの風情を抱えるものである。
これは立派な宮殿から
あばら家に至るまで変わらない。

しかし欲望や情念がそれを見失わせる。
目の前に立派とされるものが来れば
ありがたがろうとするし、
目の前に卑しいとされるものが来れば
嫌悪しようとする。

指ひとつまみほど程度の違いが、
なんとも大きな隔たりとなるものだ。

進修道,要個木石的念頭,若一有欣羨,便趨慾境;
濟世經邦,要段雲水的趣味,若一有貪著,便墮危機。

その身の修養にあたり、
自らの身が木や石のごときもの、
と認識しておくように。
そこに喜びや嫉妬が混じれば
我欲のただ中に陥ろう。

世の中を切り盛りする身ならば
おのが心を雲や水の間に
いよいよ漂わせおくべきである。
貪欲、執心を示せば
自ずと危機を招こう。

吉人無論作用安詳,即夢寐神魂,無非和氣;
凶人無論行事狠戾,即聲音笑貌,渾是殺機。

吉をもたらす人は、
外向きの吉事は言うまでもなく、
その夢の中においても、
常に安らかで居るものである。

凶をもたらす人は、
外向きの凶行は言うまでもなく、
その声音や笑顔にも
全て害意を帯びるものである。

肝受病,則目不能視;
腎受病,則耳不能聽;
病受於人所不見,必發於人所共見。
故君子欲無得罪於昭昭,先無得罪於冥冥。

肝臓に得た病は、やがて視力を奪う。
腎臓に得た病は、やがて聴力を奪う。

病は見えないところから始まるが、
最終的には誰の目にもわかるようになる。

故に君子たるもの
おおっぴらな罪を得ないよう、
ささやかな罪を犯すこともないのである。

福莫福於少事,禍莫禍於多心。
唯苦事者,方知少事之為福;
唯平心者,始知多心之為禍。

かかずらうものが少ないことほど
幸いなることもあるまい。
かかずらうものが多いことほど
禍いたることもあるまい。

とは言え、いちど煩瑣に苦しまねば、
従事の少なさを幸いと思えぬものだ。
平静さを保ち置ける者も、かつては
煩瑣の労苦を味わったことであろう。

處治世宜方,處亂世宜圓,處叔季之世,當方圓並用;
待善人宜遏ぢ墮┸裕荒遏ぢ塒眾之人,當醵邯濛検

治世にあっては四角四面が良い。
乱世にあっては丸くあるのが良い。
その狭間のときにあっては、
双方を使い分けねばならぬ。

善人をもてなすのは醢造砲董
惡人に対応するには厳しく。
どちらでもない大多数には、
双方を使い分けねばならぬ。

我有功於人不可念,而過則不可不念;
人有恩於我不可忘,而怨則不可不忘。

何かの功績を得たとき、
そのことは忘れるのが良い。
誰かに過ちを犯したとき、
そのことは忘れぬのが良い。

誰かから恩を受けたら
そのことは忘れぬのが良い。
誰かを怨みに思ったら
そのことは忘れるのが良い。

施恩者,內不見己,外不見人,則斗粟可當萬鍾之惠;
利物者,計己之施,責人之報,雖百鎰難成一文之功。

誰かに恩をもたらしておきながら、
自らの利益も、他者よりの感謝にも
見向きしないものによる僅かな恵みは
莫大な恩恵をもたらすものである。

周りに利益を与えるのに、
自らの利益や、他者よりの尊敬に
気を取られ続けておれば、
たとえ百金をなげうったとて
まともな功績も残せるまい。

人之際遇,有齊有不齊,而能使己獨齊乎?
己之情理,有順有不順,而能使人皆順乎?
以此相觀對治,亦是一方便法門。

人生楽あり苦ありである。
自分ひとり楽を味わうだけの
ままでいられようか?

己の感情にも順調不調がある。
ならばひとの機嫌がいつでも
いいままでなどあり得ようか?

己にも、相手にもバイオリズムがある。
それらとうまく付き合うのが、
処世の処方ではなかろうか?

心地清淨,方可讀書學古。
不然,見一善行,竊以濟私,
聞一善言,假以覆短,是又藉寇兵而齎盜糧矣。

清く澄み渡った心地にて、
書よりいにしえの心を学ぶのが良い。

では、それを全うできずに学べば。

典籍に残る良き行いを、
自らの利益のために実践する。
典籍に残る良き言動を、
自らの失態を糊塗するため用いる。

なんだ、これは。
侵略者に兵力を与え、
盗賊に食料を差し出す。
そのようなものではないか。

奢者富而不足,何如儉者貧而有餘;
能者勞而府怨,何如拙者逸而全真。

驕り高ぶるものが資産を得てもなお
さらなる資産を求めるのと、
つつましきものが貧しくともなお
余財を抱えるのとの、
どちらが良いだろうか。

有能なものが日々労力を費やしてなお
他者から恨みつらみを受けるのと、
無能なものが集団からはぐれてなお
自身の本分を全うできるのとの、
どちらが良いだろうか。

讀書不見聖賢,為鉛槧傭;
居官不愛子民,為衣冠盜;
講學不尚躬行,為口頭禪;
立業不思種,為眼前花。

聖賢の言葉尻の奴隷であるな。

官吏ならば民を愛すべし。

能書きだけの書生坊主であるな。

事業で目先の小金に溺れるな。

人心有一部真文章,都被殘編斷簡封錮了;
有一部真鼓吹,都被妖姬豔舞湮沒了。
學者須掃除外物,直覓本來,纔有個真受用。

自らのこころを深堀りするのだ。

その奥には見るべき興趣が潜むものだ。
掘り出し方がわからぬ故に、
その断片を見るべき無しと封じる。

その中には気高き歌声が潜むものだ。
照らし出し方がわからぬ故に、
いかがわしきものとして埋め立てる。

学ぶひとよ。外面にとらわれるな。
内側にあるもの、奥にあるものを
求めてゆけば、
その中にほんのかすかにでも、
己が真の才覚を見いだせよう。

苦心中,常得心之趣;
得意時,須防失意之悲。

逆境に向き合う中で、
「こいつは楽しいな」と思える
何かを見出せたなら、強い。

順風満帆のタイミングに、
「やべーことが起こりそうだ」と思える
何かを見出せたなら、強い。

富貴名譽,自道來者,如山林中花,自是舒餘繁衍;
自功業來者,如盆檻中花,便有遷徙廢興;
若以權力得者,如瓶鉢中花,其根不值,其萎可立而待矣。

富貴と名譽をどのように得たか。

道あるふるまいから得たならば、
山林に咲く花がごとく、
生き生きと繁茂する。

功績業績によって得れば、
鉢植えの花がごとく、
状況で移り変わる。

権力を振るって得れば、
花瓶に挿された花がごとく、
一応立っているが、
枯れるのを待つばかりである。

春至時和,花尚舖一段好色,鳥且囀幾句好音。
士君子幸值清時,復遇溫飽,不思立好言,行好事,
雖是在世百年,恰似未生一日。

春が訪れ、寒さも和らげば
花は色鮮やかに咲き、鳥も美しくさえずる。

世に受け入れられ、衣食が満ちれば、また、
士人も美しき言葉を、君子も美しき行いを。

このように思えないのであれば、
仮に百年を生きたとしても、
一日ぶんの生も全うできたとは言えぬのだ。

學者有段競業的心思,又要有段瀟洒的趣味。
若一味斂束清苦,是有秋殺,無春生,何以發育萬物。

学習者に身を削るような克己心は
確実に求められこそする。
しかし、遊び心もまた必要である。

ただ求道にのみ身を削れば、
秋風が草葉を枯らし殺すのみである。
穏やかな春風無くして、
どうして万物が育まれようか。

真廉無廉名,圖名者正所以為貪;
大巧無巧術,用術者乃所以為拙。

誠に慎ましきものは
慎ましさでの名声など得ぬ。
そうした名声を得たらんと目すものは
単に貪欲なだけである。

真に優れた技術は
作為の欠片も見せぬ。
そうした見せかけの技巧を求めるうちは
拙きままである。

欹器以滿覆,撲滿以空全。
故君子寧居無不居有,寧處缺不處完。

特殊な水差し、欹器は
満タンになるとひっくり返る。
貯金箱、撲滿は
中に金が満ちると割られてしまう。

満ち足りることは、あやうい。

故に君子は確かな居場所なぞ求めず、
また完璧なる安寧をも求めぬのだ。

名根未拔者,縱輕千乘甘一瓢,總墮塵情;
客氣未融者,雖澤四海利萬世,終為賸技。

名誉に未練があるものは、
たとえ諸侯を軽んじ、
一杯の水を楽しんだとしても
結局は世論に囚われ続ける。

他人の目を気にすれば、
たとえ世界に恵みをもたらし、
子孫に資産を残したとしても、
おまけのような人生にしか感じぬ。

心體光明,暗室中有青天;
念頭暗昧,白日下生匍粥

身体を健やかに保ち置ければ、
暗中模索の中でも晴れやかでおれよう。

身体の健やかさを保てねば、
順風満帆の中でも煩悶を禁じ得まい。

人知名位為樂,不知無名無位之樂為最真;
人知飢寒為憂,那知不飢不寒之憂為更甚。

栄誉賞賛を浴びる喜ばしさよ。
それなくとも喜びを覚えておれるほうが
より日々を楽しめるのだが。

飢え寒さの只中にある苦しさよ。
それなくとも憂いを抱き続けるほうが
より日々が苦しいのだが。

為惡而畏人知,惡中猶有善路;
為善而急人知,善處即是惡根。

悪事を為すときに露見を恐れるなら、
まだ踏みとどまれる余地もあろう。

善事を自慢の道具としか見なさぬなら、
地獄への石積みとなろう。

天之機緘不測。
抑而伸,伸而抑,皆是播弄英雄,顛倒豪傑處。
君子只是逆來順受,居安思危,天亦無所施其技倆矣。

天の配剤なぞ、
およそひとに測れるものではない。
あるときは誰かを勇躍させ、
かと思えば抑え込み。
またあるときは、その逆。

天の気まぐれに英雄は翻弄され、
豪傑すらときに打ち倒される。

しかるに、君子は逆境を
ただ我が身に訪れたもの、
としてのみ受け取る。
安楽の中にいつでも危地が
潜みうるもの、と認識する。

故に天は君子を押さえつけも、
飛躍させもできぬのである。

燥性者火熾,遇物則焚;
寡恩者冰清,逢物必殺;
凝滯固執者,如死水腐木,生機已絕。
俱難建功業而延福祇。

苛烈な性分の者は、
行き会うすべてを焼き払う。

冷淡な性分の者は、
行き会うすべてを凍て殺す。

固執する性分の者は
生きながらにして壊死してゆく。

こうした性分の者たちが
仮に功績を打ち立ててみたところで、
どれだけ幸いを分かち合えようか。

福不可邀,養喜神,以為召福之本而已;
禍不可避,去殺機,以為遠禍之方而已。

幸福を求めてはならぬ。
何事にも喜ぶことで、
自らの生が幸いとなるよう
思いを整えよ。

災いを避けられはせぬ。
あらゆる災いを
従容と受け入れれば、
さらなる災いをも避け得よう。

十語九中,未必稱奇,一語不中,則愆尤駢集;
十謀九成,未必歸功,一謀不成,則訾議叢興。
君子所以寧默毋躁,寧拙毋巧。

識者は十の予見のうち、
たったひとつが外れることで、
大いに批判されがちである。

軍師は十の謀略のうち、
たったひとつが外れることで、
大いに糾弾されがちである。

君子がなぜ沈黙を求めるか?
あえて拙いと思われようとするのか?

他者よりの期待が
往々にして毒となり得るからである。

天地之氣,暖則生,寒則殺。
故性氣清冷者,受享亦涼薄。
唯和氣熱心之人,其福亦厚,其澤亦長。

天地は、
温暖であれば生物を育み、
寒冷であれば生物を殺す。

即ち、
冷淡なる者は恩恵にも淡白であり、
温和なる者は恩恵にも歓喜し、
その恩恵にも長く与り続ける。

天理路上甚遏ゃ爪眇粥ざ暫翳憺換睫跡大;
人欲路上甚窄,纔寄跡,眼前俱是荊棘泥塗。

天のことわりは無窮。
天に心をたゆたせれば、
無限の視野を手に入れられる。

人の欲のちまたは狭隘。
さなかでいくらもがいても、
茨に傷つき、泥濘に足を取られるのみ。

一苦一樂相磨鍊,鍊極而成福者,其福始久;
一疑一信相參勘,勘極而成知者,其知始真。

自己研鑽における苦しみと、楽しみ。
そのどちらもを受け入れた先に得た
功績こそが、久しく身を立てる。

試行錯誤における疑念と、受容。
そのどちらもを検証し続けた先に得た
見識こそが、まことの知恵である。


心不可不虛,虛則義理來居;
心不可不實,實則物欲不入。

内心に雑念を住まわせてはならぬ。
雑念を打ち払えたならば
同義、真理が心に住み着こう。

内心が道義、真理に満ち溢れておれば、
物欲に心乱されもせぬのだ。

地之穢者多生物,水之清者常無魚。
故君子當存含垢納污之量,不可持好潔獨行之操。

泥濘の中には多くの生き物が住み、
清水の中にはほとんど魚がいない。

君子たるもの、世俗の汚泥を引き受け、
迂闊に潔癖であり続けようとしてはならぬ。

泛駕之馬可就馳驅,
躍冶之金終歸型範。
只一優游不振,便終身無個進步。
白沙云:
「為人多病未足羞,一生無病是吾憂。」真確論也。

じゃじゃ馬は乗り手次第で名馬となり、
粗鋼も鍛冶師次第で良き器となる。

しかし、いかなる才能があったとて、
その才能を無駄に遊ばせてばかりでは
その生涯にてなんら足跡を残せはせぬ。

陳献章先生は仰った。

「病多き人生なぞ、恥じるに足りぬ。
 病に苦しむことを知らぬ人生を
 送ってきたものにこそ、
 いざというときの対応に
 不安を覚えずにおれぬのだ」

人生の順境、逆境を検証するにあたり、
重々に弁えおかねばならぬ言葉ではないか。

人只一會貪私,便銷剛為柔,
塞智為昏,變恩為慘,染潔為污,壞了一生人品。
故古人以不貪為寶,所以度越一世。

ひとたび私欲にまみれれば
強きはずの心はふやけ、
聡明さも暗愚となり、
他人には害ばかりをもたらし、
純潔の心を汚す。

こうなれば人生は終わる。

ゆえに古人は貪婪さを捨て
慎ましやかさを宝とし、
その人生と送り切ったのである。

耳目聞見為外賊,情欲意識為內賊。
只是主人翁惺惺不昧,獨坐中堂,賊便化為家人矣。

外からは目や耳を通じ、
うちからは欲望情念を通じ、
種々の邪心の種がもたらされる。

我が魂のみを明瞭とし、曇らせず、
心を魂のそばにて瞑想させよ。

さすれば外部よりの情報も、
内心の欲求も、よき隣人となろう。

圖未就之功,不如保已成之業;
悔既往之失,不如防將來之非。

取らぬ狸の皮算用をする暇があったら、
すでに確立された体制の維持を心掛けよ。

覆水盆に返らずである。
ならば将来のトラブルを防く策を考えよ。


氣象要高曠,而不可疏狂;
心思要縝密,而不可瑣屑;
趣味要沖澹,而不可偏枯;
操守要嚴明,而不可激烈。

理想を求めてもよい、
詰めすぎて偏狭にならぬようにせよ。

深く思考するのはよい、
詰めすぎて意固地にならぬようにせよ。

恬淡なる心持ちを抱くのもよい、
詰めすぎて枯れ果てぬようにせよ。

倫理節度を固く守るのはよい、
詰めすぎて激烈にならぬようにせよ。

風來疏竹,風過而竹不留聲;
雁度寒潭,雁去而潭不留影。
故君子事來而心始現,事去而心隨空。

竹林に吹き込む風はさざめきを産むも、
いざ風が去ればその音も去りゆく。

冬、南に飛ぶ雁を冷たい泉が映しても、
いざ雁が去ればその影も、また。

ゆえに君子は何かが起こったときに
初めて対応し、あとには引きずらぬ。

清能有容,仁能善斷;
明不傷察,直不過矯。
是謂蜜餞不甜,海味不鹹,纔是懿。

清廉にして包容力があり、
ひとを思いやれつつ果断であり、
察しの良さをあら捜しに用いず、
はっきりとした物言いで、
しかし誰かを傷つけもせぬ。

甘すぎぬ蜜菓子のような、
塩辛すぎぬ海産物のような。

ここまでのふるまいを備えられれば、
まあ、良き徳の人とは呼べようか。

貧家淨掃地,貧女淨梳頭,
景花雖不豔麗,氣度自是風雅。
士君子一當窮愁寥落,奈何輒自廢弛哉。

入念な清掃の行き届いた貧家の庭先、
丹念に駆使を通した貧家の女のもとどり。

これらは豪華絢爛でこそないが、
その心持は、まこと雅やかである。

ならば人士や君子も、
ひとたび零落の憂き目に遭ったところで、
どうして自暴自棄に振る舞えようか。

涼翩塋過,忙處有受用;
靜中不落空,動處有受用;
暗中不欺隱,明處有受用。

時間ができたときにも
ダラダラとせずにおれば、
いざ忙しくなったときにも
有用な働きができる。

変化少なきときにも
ぼうっとせずにおれば、
いざ事態が動き出したときにも
有用な働きができる。

人から見えぬところにても
欺瞞を働かずにおれば、
ひと目の前でも
堂々とした働きができる。

念頭起處,纔覺向慾路上去,便挽從理路上來。
一起便覺,一覺便轉,
此是轉禍為福,起死回生的關頭,切莫輕易放過。

心に欲望の芽が生まれたと
悟ったならば、すぐに道理に戻れ。

以降、ひとたび欲望がわいたとき、
即便に悟り、転じるのだ。

こうした心がけを
心の中に住まわせることで、
禍を福に転じさせ、
起死回生のきっかけを起こせる。

心に巣食ったささいな欲望を
ささいだからと見過ごしてはならぬ。

靜中念慮澄遏じ心之真體;
涼聟羮殼詫董ぜ運看型慎 
淡中意趣沖夷,得心之真味。
觀心證道,無如此三者。

雑音なきところでの瞑想により、
得られるものが三つある。

思念を澄み渡らせ、心の形を見出す。
感情をたゆたせ、心の動きを見出す。
感覚を開け放ち、望ましき感覚を見出す。

この三つを知る以上に、
己の心を探るよき手立てはない。

靜中靜非真靜,動處靜得來,纔是性天之真境;
樂纔樂非真樂,苦中樂得來,纔見心體之真機。

静謐の中でだけでなく、
慌ただしく、騒がしい中にあってこそ
心を静かにできるのがよい。
そこまでくれば真境に至ったと言えよう。

楽しき場にあってだけでなく、
苦境の中にあってこそ
心を楽しませられるのがよい。
そこまでくれば身体のまことの働きを
見出せよう。

捨己毋處其疑,處其疑,即所舍之志多愧矣;
施人無責其報,責其報,並所施之心俱非矣。

ひとたび身を粉にして働くと
決めたならば、迷いは振り切らねばならぬ。
そうした迷いは、はじめの志を辱めよう。

ひとたび人に何かを施すと
決めたならば、見返りを求めてはならぬ。
助けたい、という想いすら無意味となろう。

天薄我以福,吾厚吾以迓之;
天勞我以形,吾逸吾心以補之;
天阨我以遇,吾亨吾道以通之。天且奈我何哉。

天よ。

我を冷遇するなら
徳もって迎え入れよう。

我に苦しみを与えるなら
卓越した心持ちにて補おう。

我に苦難を与えるなら、
我が道を胸を張って進もう。

天よ、
我をどうこうできると思ったか。

貞士無心徼福,天即就無心處牖其衷;
憸人著意避禍,天即就著意中奪其魄。
可見天之機權最神,人之智巧何益。

節操あるものは自ら幸いを求めぬ。
ならばこそ天はその衷心に幸いを導く。

ねじくれたものは殊更に禍を嫌う。
ならばこそ天はその性根に罰をもたらす。

見よ、至高なる天の働きを、
どう人の知恵にて越えようというのか。

聲妓晚歲從良,一世之烟花無礙;
貞婦白頭失守,半生之消苦俱非。
語云:「看人只看後半截。」真名言也。

若き日に荒淫の日々を過ごしたとて、
晩年に節度さえあれば、美しき生。

若き日に貞淑を貫いたとて、
晩年に節度を失えば、誉れは消える。

「人はその後半生さえ見ればよい」
と言う者があった。至言である。

平民肯種施惠,便是無位的公相;
士夫徒貪權市寵,竟成有爵的乞人。

爵位低き者でも
徳行を修め恵みを施さば
貴人たりえよう、ただ爵位が無いだけで。

爵位高き者でも
権勢に溺れ名声を求めれば
乞食たりえよう、ただ爵位が高いだけで。

問祖宗之澤,吾身所享者是,當念其積累之難;
問子孫之福祉,吾身所貽者是,要思其傾覆之易。

我が身はなにゆえここにあるのか。
先祖の血統がつながった故である。
その稀なる恩恵を忘れてはならぬ。

我が身は何をもたらすか。
子孫の血統の始まりである。
その途絶えやすさを忘れてはならぬ。

君子而詐善,無異小人之肆惡;
君子而改節,不及小人之自新。

いやしくも君子たらんと志しながら
善きものを欺こうとすれば、
その罪業は小人の悪事より重い。

いちど定めた志を撤回するのは
小人が変わらんとする決意よりも
重大である。

家人有過,不宜暴怒,不宜輕棄。
此事難言,借他事隱諷之;今日不悟,俟來日再警之。
如春風解凍,如和氣消冰,纔是家庭的型範。

家族の過ちは激しく叱責すべきではなく、
さりとて安易に放置してもならぬ。

もしそれを言いづらいのであれば、
別の事柄に仮託して諌めるのが良い。

その日のうちに家族が過ちに
気づかぬのであれば、日を改めて
改めて語るのが良い。

春風は凍てついた空気を緩め、
空気がゆるめば氷もまた溶け出す。

家族の過ちとは、
こうした接し方をするのが
まだ良いのかもしれない。

此心常看得圓滿,天下自無缺憾之世界;
此心常放得酳拭づ群室無險側之人情。

円満とすべきは我が心。
さすれば天下に不足も怒りもない。

酳燭箸垢戮は我が心。
さすれば天下の危険も退きやすい。

澹泊之士,必為濃豔者所疑;
檢飾之人,多為放肆者所忌。
君子處此,固不可少變其操履,亦不可露其鋒芒。

飾り気のない素朴な者は、
派手好みの者より疑われる。

自身を大きく主張しない者は、
主張したがりより忌まれる。

君子たらんとするならば、
目指した自らの歩みを
揺らがせるべきでない。

而して、己が才気を
目立たせるべきでもないのだ。

居逆境中,周身皆鍼砭藥石,砥節勵行而不覺;
處順境內,滿前盡兵刃戈矛,銷膏糜骨而不知。

逆境とは針や薬石のごときもの。
我が身の節度を整え、磨く。
しかし、そのことに気付かぬ。

順境とは向けられた刃物のごときもの。
我が心身はややも削れゆく。
しかし、そのことを悟れぬ。

生長富貴叢中的,嗜慾如猛火,權勢如烈燄。
若不帶些清冷氣味,其火燄若不焚人,必將自爍矣。

満ちた環境に生まれた者が抱く欲望は
猛火の如き激しさ。ましてや、
權勢欲ときたら、更に輪をかける。

そうした事実と向き合い、
いささかなりとも胸中に
清水冷風を呼び込まねば、
仮に他者を焼かずとも、
自らを焼くこととなろう。

人心一真,便霜可飛,城可摧,金石可貫。
若偽妄之人,行骸徒具,真己已亡,
對人則面目可憎,獨居則形影自媿。

ひとえに己が心を整えてさえおれば、
無茶と思えるようなこともなし得よう。
振り降りた霜を吹き払うであるとか、
その意気にて堅城を砕くであるとか、
あるいは鉱石に穴をあけるであるとか。

己の心を偽り続ければ、
ただの生きた革袋となり果てる。
そこに確かな自意識もおらず、
他者から嫌悪されるような
顔つきしか浮かべられず、
ひとりきりともなれば、肉体とその影が
「どうしてこうなってしまったのか」と、
ひたすらに恥じ入ってしまうのだ。

文章做到極處,無有他奇,只是恰好;
人品做到極處,無有他異,只是本然。

文章が極まれば特段の奇異な表現なく
ただ「良い」とだけ思わせる。

人品が極まれば特段の特殊な言動なく
ただ「然り」とだけ思わせる。

以幻迹言,無論功名富貴,即肢體亦屬委形;
以真境言,無論父母兄弟,即萬物皆吾一體。
人能看得破,認得真,纔可以任天下之負擔,亦可脫世間之韁鎖。

世は幻。
功名富貴を問うて何の意味があろう。
ただこの四肢が生えるのみ。

世は、ただある。
父母兄弟の別を問うて何の意味があろう。
そこに身体がある、それだけのこと。

虚飾の向こう、「ただ、ある」こと。
それだけが見出すべきことである。

そうしたことに気付けるものこそが
天下を見渡すことができるし、
世のしがらみより脱し得るのである。

爽口之味,皆爛腸腐骨之藥,五分便無殃;
快心之事,悉敗身喪之媒,五分便無悔。

口を喜ばす美味は身体を損ねる。
半ばほどを嗜めば害もあるまい。

心を快ばす言葉は仁徳を損ねる。
半ばほどに聞けば害もあるまい。

不責人小過,不發人陰私,不念人舊惡。三者可以養,亦可以遠害。

ささいなミス。
内に秘めておきたいこと。
昔のとが。

こうしたものを暴き立てずにおれば
徳は養え、害も遠ざけられよう。

士君子
持身不可輕,輕則物能撓我,而無悠閑鎮定之趣;
用意不可重,重則我為物泥,而無瀟灑活潑之機。

士や君子の心掛け。

行いは軽々ではならぬ。
他者に振り回され、余裕と重厚さを失う。

気配りは鈍重ではならぬ。
まごまごする内に瀟洒、闊達を失う。

天地有萬古,此身不再得;
人生只百年,此日最易過。
幸生其間者,不可不知有生之樂,亦不可不懷虛生之憂。

天地は無限の時を過ごすも、
この身に二度目、はない。

人生、わずか百年。
気付けばすぐに過ぎ去ろう。

我々は幸いにも、時を与えられた。

この喜びに気付けぬことのなきよう、
徒に虚無を抱え込むことのなきよう。

怨因彰,故使人我,不若怨之兩忘;
仇因恩立,故使人知恩,不若恩仇之俱泯。

人望は裏切られることで恨みに変わる。
ならばはじめから人望など感じさせず
人望も恨みも感じさせねば良い。

恩寵は裏切られることで憎しみに変わる。
ならばはじめから恩寵など示さず
恩寵も憎しみも覚えさせねば良い。

老來疾病,都是壯時招的;
衰後罪孽,都是盛時作的。
故持盈履滿,君子尤兢兢焉。

年老いたときの病は、
若いときの無茶が原因である。

権勢衰えて罪や災いを受けるのは
盛んなときの振舞いが原因である。

ゆえにもっとも状況の良いときほど
君子は警戒心を高め過ごすのである。

市私恩,不如扶公議;
結新知,不如敦舊好;
立榮名,不如種隱;
尚奇節,不如謹庸行。

個人的な恩を売るくらいなら、
お国の課題解決を手伝ったほうが良い。

交友関係を広げるくらいなら、
旧友との交流を篤くするのが良い。

栄誉をその身に浴びるくらいなら、
ひっそりと徳業を積むのが良い。

下手に目立つくらいならば、
中庸を保ち、慎むのが良い。

公道正論,不可犯手,一犯,則貽羞萬世;
權門私竇,不可著腳,一著,則點汗終身。

行論、正論を犯してはならぬ。
ひとたび犯せば、
その恥は末代まで伝えられよう。

権勢者の懐に歩み寄ってはならぬ。
ひとたび踏み入れれば、
恐怖と緊張に縛られ続けよう。

曲意而使人喜,不若直躬而使人忌;
無善而致人譽,不若無惡而致人毀。

信念を曲げ人を喜ばすくらいなら、
おのれの意志に従い
人に嫌われるほうがマシである。

善行なく栄誉を浴びるくらいなら、
無実の批判を受けるほうが
まだしもマシである。

處父兄骨肉之變,宜從容,不宜激烈;
遇朋友交遊之失,宜剴切,不宜優游。

目上の家族の異変に巡りあったら、
おとなしくやり過ごすのが良い。
歯向かうことに利はない。

友人らの過失に巡りあったら、
即座に諫めるのが良い。
のんびり見逃してはならぬ。

小處不滲漏,暗處不欺隱,末路不怠荒,纔是個真正英雄。

小事を疎かにせず、
誰も見ぬからと誤魔化さず、
どん底でも捨て鉢にならぬ。

まぁ実践は難しいが、
あるいは、実践ができたならば
英雄と呼ばれてもよいのやも知れぬ。

千金難結一時之歡,一飯竟致終身之感。蓋愛重反為仇,薄極反成喜也。

千金を傾けて
喜ばれないこともあれば、
たった一食で
一生感謝されたりもする。

下手に思い入れを強く持てば
却って憎しみを抱くこととなり、
こだわりを捨てるからこそ
思いがけぬ喜びに出会えるものだ。

藏巧於拙,用晦而明,寓清之濁,以屈為伸,真涉世之一壺,藏身之三窟也。

巧みさは拙さの内にしまうのが良い。
暗愚さの振りをする聡明さ、である。

清きは濁れるに仮住まいさせるが良い。
伸びるためにはまず屈せねばならぬ。

こうした韜晦こそが世を渡るにあたり、
ちょっとしたシェルター、
立ち返るべき原点となろう。

衰颯的景象,就在盛滿中;
發生的機緘,即在零落內。
故君子居安,宜操一心以慮患;處變,當堅百忍以圖成。

衰微のきざしは、満ち足りたところにある。
再生のきざしは、こぼれ落ちた中にある。

ゆえに君子は
やすらかなときにひたるさ危機に備え、
変事にて耐え忍び、達成の絵図を描く。

驚奇喜異者,無遠大之識;
苦節獨行者,非恆久之操。

目新しいものに浮つく者に
遠大なるものを知るすべはない。

自身のやり方に固執する者に
変わらぬ本質を学ぶすべはない。

當怒火慾水正騰沸處,明明知得,又明明犯著。
知的是誰,犯的又是誰,此處能猛然轉念,邪魔便為真君矣。

烈火のごとき怒り、洪水のごとき欲望。
ひとたびこうしたものに染まれば、
それがあやまちとわかりつつも、
あやまちを犯してしまうものである。

あやまちであると知るならば。
ならば、その先に何がある。

それに気付けば、獰猛なる思いも
邁進の力へと換えること叶おう。

毋偏信而為奸所欺,
毋自任而為氣所使。
毋以己之長而形人之短,
毋因己之拙而忌人之能。

凝り固まった思考をすれば、
易易と詐欺師に引っ掛けられよう。

万能感がいきすぎれば、
余計な手出し口出しで災いをまねこう。

自らの美点をもとに他者を蔑むのも、
自らの無能をもとに他者を妬むのも、
ことほど無益なこともない。

人之短處,要曲為彌縫,如暴而揚之,是以短攻短;
人有頑的,要善為化誨,如忿而疾之,是以頑濟頑。

ひとの短所は縫い合わせるよう
導いてやるのが良い。
指摘し直させようとしても、
短気で短所が治るだろうか。

頑迷なる者はものの例えにて
婉曲に導くと良い。
怒り、憎んでみたところで、
頑迷が頑迷を救うだろうか。

遇沈沈不語之士,且莫輸心;
見悻悻自好之人,應須防口。

あまりに無口なものに、
そうそう内心をさらけ出してはならぬ。

怒りっぽく、自己愛強きものと、
そうそう言葉を交してはならぬ。

念頭昏散處,要知提醒;
念頭喫緊時,要知放下。
不然恐去昏昏之病,又來憧憧之擾矣。

思考がぼんやりとしているときに
気を引き締めねばならぬよう、
気持ちが張り詰めているときには
心を緩める必要がある。

気抜けの状態をどうにかしようとして
いたずらに気忙しさを抱えては、
元も子もあるまい。

霽日青天,倏變為迅雷震電;
疾風怒雨,倏轉為朗月晴空。
氣機何嘗有一毫凝滯,
太虛何嘗有一毫障塞,
人之心體,亦當如是。

一面の晴天がやにわに嵐となるように、
暴雨の荒天がやにわに晴れ上がるように、
精気の流れ、はたまた万物は
とどまらず、塞がらぬ。

人の身体もまた、かく在りたいものだ。

勝私制慾之功,
有曰識不早,力不易者,
有曰識得破,忍不過者。
蓋識是一顆照魔的明珠,力是一把斬魔的慧劍,兩不可少也。

私欲に打ち勝つための術について。

あるものが語った。
早めに会得できねば
打ち勝つための気力を養えぬ、と。

あるものが語った。
かりに知識として学べど
往々にして耐えきれぬものだ、と。

思うに私欲に打ち勝つ術とは
魔をあぶり出す数珠であり、
私欲に打ち勝つ力とは
魔を払う護法の剣なのだろう。

どちらも少量では無意味である。

覺人之詐,不形於言;
受人之侮,不動於色。
此中有無窮意味,亦有無窮受用。

欺かれた、と口にする必要もなく、
侮られた、と怒りを浮かべる必要もない。

さすれば図りしれぬ人物と思われ、
とてつもなき役割を請け負えるのだ。

垉婪さ臉煅煉豪傑的一副鑪錘,
能受其煅煉,則身心交益,
不受其煅煉,則身心交損。

逆境や貧困はひとを鍛える。
鋼を打つ、鎚のようなものだ。

受けることでひとの背筋は通るが、
受けることから逃げれば背筋は緩む。

吾身一小天地也,使喜怒不愆,好惡有則,便是燮理的工夫;
天地一大父母也,使民無怨咨,物無氛疹,亦是敦睦的氣象。

わが身はひとつの天地である。
喜怒にせよ好惡にせよ自然に逆らわねば、
自ずと物事を収められるものである。

天地はそのものが父母である。
人々が恨みから解き放たれ、
万物にトラブルなくば、
皆が厚く睦まじく過ごせよう。


害人之心不可有,防人之心不可無,此戒疏於慮也;
寧受人之欺,毋逆人之詐,此儆傷於察也;
二語並存,精明而渾厚矣。

他者を侵害すべきではなく、
また他者の言葉より心を守らねばならぬ。
諸トラブルより身を守る処方である。

他者より欺かれることがあるにせよ、
欺かれぬよう気を張り続けるのも良くない。
自分から傷つきに行ってはならぬ。

どちらかに偏りすぎないよう、
バランスを保ちおくことができれば、
明察にしてどっしりとした人であれる。

毋因群疑而阻獨見,
毋任己意而廢人言,
毋私小惠而傷大體,
毋借公論以快私情。

周囲に流されて
自らの見識を疑ってはならぬ。
自らの意見に固執して
無闇に他者を否定してもならぬ。

目先のささやかな利益のために
遠き先の目途を見失ってはならぬ。
虎の威を借りて
自身の大きさを勘違いしてはならぬ。

善人未能急親,不宜預揚,恐來讒譖之奸;
惡人未能輕去,不宜先發,恐遭媒孽之禍。

善き人は、急ぎ足で
親しくなろうしても叶わぬ。
また軽々に称揚してもならぬ、
善き人に讒言がまとわりつこうから。

惡しき人を、急ぎ足で
退けることは叶わぬ。
また軽々に遠ざけようとするのも危うい、
その者より冤罪がもたらされようから。

青天白日的節義,自暗室屋漏中培來;
旋乾轉坤的經綸,自臨深履薄處繅出。

晴れ渡った空に輝く太陽のごとき節義も、
暗き部屋でひとり沈思した時間より
発されるものであろう。

天下を刷新しうる際立った政策とて、
深き沼のフチ、薄い氷の上を歩くが如き
細心よりたぐり出されよう。

父慈子孝,兄友弟恭,縱做到極處,
俱是合當如此,著不得一毫感激的念頭。
如施者任,受者懷恩,便是路人,便成市道矣。

父は子を慈しみ、子は孝行を捧ぐ。
兄は弟を友のごとく扱い、
弟は兄に恭しく仕える。

こうしたことが万全に為し得たところで、
それはあくまで当然のこととせねばならぬ。

そこに多少でも感謝、感激の念が
混じりこむのであれば、それはもはや、
道々に行き会う人、あるいは
市場で取引する相手でしかない。

有妍必有醜為之對,我不誇妍,誰能醜我;
有潔必有污為之仇,我不好潔,誰能污我。

美事と悪事は対をなす。
我が振舞を殊更に誇り飾らねば、
誰が私に醜聞を
まとわりつかせられようか。

潔癖さは汚らしさと対をなす。
我がこだわりを殊更に示さねば
誰が私のこだわりを
損ねること叶おうか。

炎涼之態,富貴更甚於貧賤;
妒忌之心,骨肉尤狠於外人。
此處若不當以冷腸,御以平氣,鮮不日坐煩惱障中矣。

感情の起伏、その激烈さは
資産量に比例しがちである。

妬み、恨む気持ちの激烈さは
近しきさに比例しがちである。

人々のこうした感情のさなかに
身を置かねばならないとき、
自らの心胆をよく冷ましておき、
気持ちを平静に保ちおかねば、
他者の煩悩に振り回されぬ、
悩み少き日なぞ、まともに訪れるまい。


功過不容少混,混則人懷惰墮之心;
恩仇不可太明,明則人起攜貳之志。

功績は功績として、過ちは過ちとして
峻別すべきである。曖昧となれば
ひとはまともに動こうとしなくなろう。

人の好き嫌いは表に出してはならぬ。
無闇な反感は事業を転覆させかねぬ。


爵位不宜太盛,太盛則危;
能事不宜盡畢,盡畢則衰;
行誼不宜過高,過高則謗興而毀來。

地位栄誉は高すぎぬほうが良い。
高すぎれば災いを招き入れようから。

能力をひけらかし過ぎぬほうが良い。
便利に使われるのみであるから。

あまり潔癖に振る舞わぬほうが良い。
過ぎれば誹謗中傷の的になろうから。


惡忌陰,善忌陽,
故惡之顯者禍淺,而隱者禍深;
善之顯者功小,而隱者功大。

悪は目立たぬことを嫌い、
前は目立つことを嫌う。

目立つ悪の害は小さく、
目立たぬものの害は大きい。

目立つ善の功績は小さく、
目立たぬものの功績は大きい。


者才之主,才者之奴。
有才無,如家無主而奴用事矣,
幾何不魍魎猖狂。

徳が才の主、
才は徳の奴婢であらねばならぬ。

その逆は、家の主がおらず執事に
好き勝手をさせるようなものである。

誰が家を獣の巣にしたいというのだ。

鋤奸杜倖,要放他一條去路。
若使之一無所容,譬如塞鼠穴者,
一切去路都塞盡,則一切好物俱咬破矣。

悪巧みするもの、おべっか使いを
いなくしたいならば、
逃げ道を残しておくべきである。

囲師は周せず、を守らなければ、
窮鼠とて猫を噛むものである。

當與人同過,不當與人同功,同功則相忌;
可與人共患難,不可與人共安樂,安樂則相仇。

失敗を共有せよ、成功は共有してはならぬ。
功を同じくするものは猜疑し合う。

苦難は共有せよ、安楽は共有してはならぬ。
安楽を独占せんと排除し合い始める。

士君子,貧不能濟物者,
遇人癡迷處,出一言提醒之;
遇人急難處,出一言解救之,
亦是無量功。

士人、君子たらんと努めれば
財産なぞ抱えられようはずもない。
ならば財で人を救えるはずもない。

しかし進むべき先に迷うものを、
苦難に行き当たり、苦しむものを、
その言葉にて救い出すことが叶う。

この力をどう財貨に例えられようか。

飢則附,飽則颺;燠則趨,寒則棄,人情通患也。
君子宜淨拭冷眼,慎毋輕動剛腸。

腹が減ったら寄り、
腹が満ちたら去る。
こちらが豊ならばへつらい、
こちらが貧しくばあしらう。

所詮ひとなぞこのようなものである。

君子たるもの、ただその目を磨き、
冷静でおり、腹の熱に浮かされた
軽挙なぞせぬようしたいものである。

隨量進,量由識長。
故欲厚其,不可不弘其量;欲弘其量,不可不大其識。

徳に伴い度量が、
度量に伴い見識が広がる。

徳を高めたければ度量が、
度量を高めたければ見識が
不可欠である。

一鐙熒然,萬籟無聲,此吾人初入宴寂時也;
曉夢初醒,群動未起,此吾人初出混沌處也。
乘此而一念迴光,炯然返照,
始知耳目口鼻皆桎梏,而情慾嗜好悉機械矣。

またひとつ明かりが消え、
街からあらゆる音が消える。
はじめて我が意識が、
安らいだ静寂に落ちてゆく。

明け方の夢より覚めるに、
街に未だ人々の気配もない。
はじめて我が意識が、
混沌のもとへと出てゆく。

こうした転機にて
我が心に光を当てれば、
あらゆるものが皓然と浮かび上がる。

このときようやく我が感覚が
もろもろがんじがらめとなっており、
なにゆえ情欲や好き嫌いの
奴隷になってしまうのかを悟るのだ。

反己者,觸事皆成藥石;
尤人者,動念即是戈矛。
一以闢眾善之路,一以導諸惡之源,相去霄壤矣。

自責の念を抱く者は
接するすべてを教訓に変える。

他責の念を抱く者は
接するすべてを傷つける。

前者には多くの善が集まり、
後者には多くの悪が集まる。
それは天地の開きにも似る。

事業文章隨身銷毀,而精神萬古如新;
功名富貴逐世轉移,而氣節千載一日。
君子信不當以彼易此也。

どれだけ事業や学問における
功績の獲得に躍起になったところで、
死ねばそれまでである。
しかし自らを高めんとする心は、
未来永劫を新たなものとしてみせる。

どれだけ功名や富貴における
繁栄の獲得に躍起になったところで、
世の基準が変わればそれまでである。
しかし自らを高めんとする心は、
同じ基準で自らを磨き続ける。

君子たるもの、表向きの繁栄が
自らの発展の代わりになるとは
まるで信じておらぬのである。

魚網之設,鴻則罹其中;
螳螂之貪,雀又乘其後。
機裏藏機,變外生變,智巧何足恃哉。

魚網に大きな鳥がかかることもあり、
獲物を狙うカマキリの後に
雀がいたりもする。

転機の中に別の転機が隠れ、
変化の向こうに別の変化が生じもする。

我が知恵や技術など、
どれだけ役に立ちきれようか。

作人無點真懇念頭,便成個花子,事事皆虛;
涉世無段圓活機趣,便是個木人,處處有礙。

ひととして生きるに当たり、
多少なりともまごころあるふるまいが
できないと、乞食となるしかない。
どこに生きる実感を抱くというのか。

世の中を泳ぐに当たり、
多少なりとも他者に合わせられねば
木偶扱いは免れられぬ。
障り多き生涯を送りたいのか。

水不波則自定,鑑不翳則自明,故
心無可清,去其混之者,而清自現;
樂不必尋,去其苦之者,而樂自存。

かき混ぜなければ水はいつか平らかとなり、
光を妨げなければ鏡は自ずと明るい。

心の混濁が抜ければ心清らかとなり、
抱える苦しみが抜ければ楽しみも蘇ろう。

有一念犯鬼神之禁,一言而傷天地之和,
一事而釀子孫之禍者,最宜切戒。

ほんの気まぐれが世のことわりを乱し、
ひとつの失言が場の調和を損ね、
思いがけぬ手違いが子孫への災いとなる。

重にわきまえおかねばならぬ。

事有急之不白者,酣薫深明,毋躁急以速其忿;
人有操之不從者,縱之或自化,毋操切以益其頑。

事態究明を焦れば焦るほど
明白とならないものである。
鷹揚に構えた方が、
えてして究明は早いものである。

無駄に急かして
怒りを買う必要もあるまい。

無理に人を操ろうとしても
従わないものとはいるものである。
やりたいようにやらしておれば
えてして変化するものである。

下手にコンロトールを強めて
頑なさをつのらせることもあるまい。


節義傲青雲,文章高白雪
若不以性情陶鎔之,終為血氣之私,技能之末。

天井知らずの道徳心とおごり、
天衣無縫の表現力と高ぶる者が
人間性的に未熟であれば
結局はただの自己愛の奴隷、
小手先の芸人でしかない。

謝事當謝於正盛之時,
居身宜居於獨後之地。
謹須謹於至微之事,
施恩務施於不報之人。

辞去は全盛時になすべし。
居場所は最後尾が良い。
徳行は目立たぬようになせ。
報いを期待する恩は恩ではない。

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