菜根譚 前１２０〜前２０５ 
當怒火慾水正騰沸處，明明知得，又明明犯著。
知的是誰，犯的又是誰，此處能猛然轉念，邪魔便為真君矣。
烈火のごとき怒り、洪水のごとき欲望。
ひとたびこうしたものに染まれば、
それがあやまちとわかりつつも、
あやまちを犯してしまうものである。
あやまちであると知るならば。
ならば、その先に何がある。
それに気付けば、獰猛なる思いも
邁進の力へと換えること叶おう。
知的是誰，犯的又是誰，此處能猛然轉念，邪魔便為真君矣。
烈火のごとき怒り、洪水のごとき欲望。
ひとたびこうしたものに染まれば、
それがあやまちとわかりつつも、
あやまちを犯してしまうものである。
あやまちであると知るならば。
ならば、その先に何がある。
それに気付けば、獰猛なる思いも
邁進の力へと換えること叶おう。
毋偏信而為奸所欺，
毋自任而為氣所使。
毋以己之長而形人之短，
毋因己之拙而忌人之能。
凝り固まった思考をすれば、
易易と詐欺師に引っ掛けられよう。
万能感がいきすぎれば、
余計な手出し口出しで災いをまねこう。
自らの美点をもとに他者を蔑むのも、
自らの無能をもとに他者を妬むのも、
ことほど無益なこともない。
毋自任而為氣所使。
毋以己之長而形人之短，
毋因己之拙而忌人之能。
凝り固まった思考をすれば、
易易と詐欺師に引っ掛けられよう。
万能感がいきすぎれば、
余計な手出し口出しで災いをまねこう。
自らの美点をもとに他者を蔑むのも、
自らの無能をもとに他者を妬むのも、
ことほど無益なこともない。
人之短處，要曲為彌縫，如暴而揚之，是以短攻短；
人有頑的，要善為化誨，如忿而疾之，是以頑濟頑。
ひとの短所は縫い合わせるよう
導いてやるのが良い。
指摘し直させようとしても、
短気で短所が治るだろうか。
頑迷なる者はものの例えにて
婉曲に導くと良い。
怒り、憎んでみたところで、
頑迷が頑迷を救うだろうか。
人有頑的，要善為化誨，如忿而疾之，是以頑濟頑。
ひとの短所は縫い合わせるよう
導いてやるのが良い。
指摘し直させようとしても、
短気で短所が治るだろうか。
頑迷なる者はものの例えにて
婉曲に導くと良い。
怒り、憎んでみたところで、
頑迷が頑迷を救うだろうか。
遇沈沈不語之士，且莫輸心；
見悻悻自好之人，應須防口。
あまりに無口なものに、
そうそう内心をさらけ出してはならぬ。
怒りっぽく、自己愛強きものと、
そうそう言葉を交してはならぬ。
見悻悻自好之人，應須防口。
あまりに無口なものに、
そうそう内心をさらけ出してはならぬ。
怒りっぽく、自己愛強きものと、
そうそう言葉を交してはならぬ。
念頭昏散處，要知提醒；
念頭喫緊時，要知放下。
不然恐去昏昏之病，又來憧憧之擾矣。
思考がぼんやりとしているときに
気を引き締めねばならぬよう、
気持ちが張り詰めているときには
心を緩める必要がある。
気抜けの状態をどうにかしようとして
いたずらに気忙しさを抱えては、
元も子もあるまい。
念頭喫緊時，要知放下。
不然恐去昏昏之病，又來憧憧之擾矣。
思考がぼんやりとしているときに
気を引き締めねばならぬよう、
気持ちが張り詰めているときには
心を緩める必要がある。
気抜けの状態をどうにかしようとして
いたずらに気忙しさを抱えては、
元も子もあるまい。
霽日青天，倏變為迅雷震電；
疾風怒雨，倏轉為朗月晴空。
氣機何嘗有一毫凝滯，
太虛何嘗有一毫障塞，
人之心體，亦當如是。
一面の晴天がやにわに嵐となるように、
暴雨の荒天がやにわに晴れ上がるように、
精気の流れ、はたまた万物は
とどまらず、塞がらぬ。
人の身体もまた、かく在りたいものだ。
疾風怒雨，倏轉為朗月晴空。
氣機何嘗有一毫凝滯，
太虛何嘗有一毫障塞，
人之心體，亦當如是。
一面の晴天がやにわに嵐となるように、
暴雨の荒天がやにわに晴れ上がるように、
精気の流れ、はたまた万物は
とどまらず、塞がらぬ。
人の身体もまた、かく在りたいものだ。
勝私制慾之功，
有曰識不早，力不易者，
有曰識得破，忍不過者。
蓋識是一顆照魔的明珠，力是一把斬魔的慧劍，兩不可少也。
私欲に打ち勝つための術について。
あるものが語った。
早めに会得できねば
打ち勝つための気力を養えぬ、と。
あるものが語った。
かりに知識として学べど
往々にして耐えきれぬものだ、と。
思うに私欲に打ち勝つ術とは
魔をあぶり出す数珠であり、
私欲に打ち勝つ力とは
魔を払う護法の剣なのだろう。
どちらも少量では無意味である。
有曰識不早，力不易者，
有曰識得破，忍不過者。
蓋識是一顆照魔的明珠，力是一把斬魔的慧劍，兩不可少也。
私欲に打ち勝つための術について。
あるものが語った。
早めに会得できねば
打ち勝つための気力を養えぬ、と。
あるものが語った。
かりに知識として学べど
往々にして耐えきれぬものだ、と。
思うに私欲に打ち勝つ術とは
魔をあぶり出す数珠であり、
私欲に打ち勝つ力とは
魔を払う護法の剣なのだろう。
どちらも少量では無意味である。
覺人之詐，不形於言；
受人之侮，不動於色。
此中有無窮意味，亦有無窮受用。
欺かれた、と口にする必要もなく、
侮られた、と怒りを浮かべる必要もない。
さすれば図りしれぬ人物と思われ、
とてつもなき役割を請け負えるのだ。
受人之侮，不動於色。
此中有無窮意味，亦有無窮受用。
欺かれた、と口にする必要もなく、
侮られた、と怒りを浮かべる必要もない。
さすれば図りしれぬ人物と思われ、
とてつもなき役割を請け負えるのだ。
�垉婪さ臉�煅煉豪傑的一副鑪錘，
能受其煅煉，則身心交益，
不受其煅煉，則身心交損。
逆境や貧困はひとを鍛える。
鋼を打つ、鎚のようなものだ。
受けることでひとの背筋は通るが、
受けることから逃げれば背筋は緩む。
能受其煅煉，則身心交益，
不受其煅煉，則身心交損。
逆境や貧困はひとを鍛える。
鋼を打つ、鎚のようなものだ。
受けることでひとの背筋は通るが、
受けることから逃げれば背筋は緩む。
吾身一小天地也，使喜怒不愆，好惡有則，便是燮理的工夫；
天地一大父母也，使民無怨咨，物無氛疹，亦是敦睦的氣象。
わが身はひとつの天地である。
喜怒にせよ好惡にせよ自然に逆らわねば、
自ずと物事を収められるものである。
天地はそのものが父母である。
人々が恨みから解き放たれ、
万物にトラブルなくば、
皆が厚く睦まじく過ごせよう。
天地一大父母也，使民無怨咨，物無氛疹，亦是敦睦的氣象。
わが身はひとつの天地である。
喜怒にせよ好惡にせよ自然に逆らわねば、
自ずと物事を収められるものである。
天地はそのものが父母である。
人々が恨みから解き放たれ、
万物にトラブルなくば、
皆が厚く睦まじく過ごせよう。
害人之心不可有，防人之心不可無，此戒疏於慮也；
寧受人之欺，毋逆人之詐，此儆傷於察也；
二語並存，精明而渾厚矣。
他者を侵害すべきではなく、
また他者の言葉より心を守らねばならぬ。
諸トラブルより身を守る処方である。
他者より欺かれることがあるにせよ、
欺かれぬよう気を張り続けるのも良くない。
自分から傷つきに行ってはならぬ。
どちらかに偏りすぎないよう、
バランスを保ちおくことができれば、
明察にしてどっしりとした人であれる。
寧受人之欺，毋逆人之詐，此儆傷於察也；
二語並存，精明而渾厚矣。
他者を侵害すべきではなく、
また他者の言葉より心を守らねばならぬ。
諸トラブルより身を守る処方である。
他者より欺かれることがあるにせよ、
欺かれぬよう気を張り続けるのも良くない。
自分から傷つきに行ってはならぬ。
どちらかに偏りすぎないよう、
バランスを保ちおくことができれば、
明察にしてどっしりとした人であれる。
毋因群疑而阻獨見，
毋任己意而廢人言，
毋私小惠而傷大體，
毋借公論以快私情。
周囲に流されて
自らの見識を疑ってはならぬ。
自らの意見に固執して
無闇に他者を否定してもならぬ。
目先のささやかな利益のために
遠き先の目途を見失ってはならぬ。
虎の威を借りて
自身の大きさを勘違いしてはならぬ。
毋任己意而廢人言，
毋私小惠而傷大體，
毋借公論以快私情。
周囲に流されて
自らの見識を疑ってはならぬ。
自らの意見に固執して
無闇に他者を否定してもならぬ。
目先のささやかな利益のために
遠き先の目途を見失ってはならぬ。
虎の威を借りて
自身の大きさを勘違いしてはならぬ。
善人未能急親，不宜預揚，恐來讒譖之奸；
惡人未能輕去，不宜先發，恐遭媒孽之禍。
善き人は、急ぎ足で
親しくなろうしても叶わぬ。
また軽々に称揚してもならぬ、
善き人に讒言がまとわりつこうから。
惡しき人を、急ぎ足で
退けることは叶わぬ。
また軽々に遠ざけようとするのも危うい、
その者より冤罪がもたらされようから。
惡人未能輕去，不宜先發，恐遭媒孽之禍。
善き人は、急ぎ足で
親しくなろうしても叶わぬ。
また軽々に称揚してもならぬ、
善き人に讒言がまとわりつこうから。
惡しき人を、急ぎ足で
退けることは叶わぬ。
また軽々に遠ざけようとするのも危うい、
その者より冤罪がもたらされようから。
青天白日的節義，自暗室屋漏中培來；
旋乾轉坤的經綸，自臨深履薄處繅出。
晴れ渡った空に輝く太陽のごとき節義も、
暗き部屋でひとり沈思した時間より
発されるものであろう。
天下を刷新しうる際立った政策とて、
深き沼のフチ、薄い氷の上を歩くが如き
細心よりたぐり出されよう。
旋乾轉坤的經綸，自臨深履薄處繅出。
晴れ渡った空に輝く太陽のごとき節義も、
暗き部屋でひとり沈思した時間より
発されるものであろう。
天下を刷新しうる際立った政策とて、
深き沼のフチ、薄い氷の上を歩くが如き
細心よりたぐり出されよう。
父慈子孝，兄友弟恭，縱做到極處，
俱是合當如此，著不得一毫感激的念頭。
如施者任��，受者懷恩，便是路人，便成市道矣。
父は子を慈しみ、子は孝行を捧ぐ。
兄は弟を友のごとく扱い、
弟は兄に恭しく仕える。
こうしたことが万全に為し得たところで、
それはあくまで当然のこととせねばならぬ。
そこに多少でも感謝、感激の念が
混じりこむのであれば、それはもはや、
道々に行き会う人、あるいは
市場で取引する相手でしかない。
俱是合當如此，著不得一毫感激的念頭。
如施者任��，受者懷恩，便是路人，便成市道矣。
父は子を慈しみ、子は孝行を捧ぐ。
兄は弟を友のごとく扱い、
弟は兄に恭しく仕える。
こうしたことが万全に為し得たところで、
それはあくまで当然のこととせねばならぬ。
そこに多少でも感謝、感激の念が
混じりこむのであれば、それはもはや、
道々に行き会う人、あるいは
市場で取引する相手でしかない。
有妍必有醜為之對，我不誇妍，誰能醜我；
有潔必有污為之仇，我不好潔，誰能污我。
美事と悪事は対をなす。
我が振舞を殊更に誇り飾らねば、
誰が私に醜聞を
まとわりつかせられようか。
潔癖さは汚らしさと対をなす。
我がこだわりを殊更に示さねば
誰が私のこだわりを
損ねること叶おうか。
有潔必有污為之仇，我不好潔，誰能污我。
美事と悪事は対をなす。
我が振舞を殊更に誇り飾らねば、
誰が私に醜聞を
まとわりつかせられようか。
潔癖さは汚らしさと対をなす。
我がこだわりを殊更に示さねば
誰が私のこだわりを
損ねること叶おうか。
炎涼之態，富貴更甚於貧賤；
妒忌之心，骨肉尤狠於外人。
此處若不當以冷腸，御以平氣，鮮不日坐煩惱障中矣。
感情の起伏、その激烈さは
資産量に比例しがちである。
妬み、恨む気持ちの激烈さは
近しきさに比例しがちである。
人々のこうした感情のさなかに
身を置かねばならないとき、
自らの心胆をよく冷ましておき、
気持ちを平静に保ちおかねば、
他者の煩悩に振り回されぬ、
悩み少き日なぞ、まともに訪れるまい。
妒忌之心，骨肉尤狠於外人。
此處若不當以冷腸，御以平氣，鮮不日坐煩惱障中矣。
感情の起伏、その激烈さは
資産量に比例しがちである。
妬み、恨む気持ちの激烈さは
近しきさに比例しがちである。
人々のこうした感情のさなかに
身を置かねばならないとき、
自らの心胆をよく冷ましておき、
気持ちを平静に保ちおかねば、
他者の煩悩に振り回されぬ、
悩み少き日なぞ、まともに訪れるまい。
功過不容少混，混則人懷惰墮之心；
恩仇不可太明，明則人起攜貳之志。
功績は功績として、過ちは過ちとして
峻別すべきである。曖昧となれば
ひとはまともに動こうとしなくなろう。
人の好き嫌いは表に出してはならぬ。
無闇な反感は事業を転覆させかねぬ。
爵位不宜太盛，太盛則危；
能事不宜盡畢，盡畢則衰；
行誼不宜過高，過高則謗興而毀來。
地位栄誉は高すぎぬほうが良い。
高すぎれば災いを招き入れようから。
能力をひけらかし過ぎぬほうが良い。
便利に使われるのみであるから。
あまり潔癖に振る舞わぬほうが良い。
過ぎれば誹謗中傷の的になろうから。
惡忌陰，善忌陽，
故惡之顯者禍淺，而隱者禍深；
善之顯者功小，而隱者功大。
悪は目立たぬことを嫌い、
前は目立つことを嫌う。
目立つ悪の害は小さく、
目立たぬものの害は大きい。
目立つ善の功績は小さく、
目立たぬものの功績は大きい。
��者才之主，才者��之奴。
有才無��，如家無主而奴用事矣，
幾何不魍魎猖狂。
徳が才の主、
才は徳の奴婢であらねばならぬ。
その逆は、家の主がおらず執事に
好き勝手をさせるようなものである。
誰が家を獣の巣にしたいというのだ。
鋤奸杜倖，要放他一條去路。
若使之一無所容，譬如塞鼠穴者，
一切去路都塞盡，則一切好物俱咬破矣。
悪巧みするもの、おべっか使いを
いなくしたいならば、
逃げ道を残しておくべきである。
囲師は周せず、を守らなければ、
窮鼠とて猫を噛むものである。
若使之一無所容，譬如塞鼠穴者，
一切去路都塞盡，則一切好物俱咬破矣。
悪巧みするもの、おべっか使いを
いなくしたいならば、
逃げ道を残しておくべきである。
囲師は周せず、を守らなければ、
窮鼠とて猫を噛むものである。
當與人同過，不當與人同功，同功則相忌；
可與人共患難，不可與人共安樂，安樂則相仇。
失敗を共有せよ、成功は共有してはならぬ。
功を同じくするものは猜疑し合う。
苦難は共有せよ、安楽は共有してはならぬ。
安楽を独占せんと排除し合い始める。
可與人共患難，不可與人共安樂，安樂則相仇。
失敗を共有せよ、成功は共有してはならぬ。
功を同じくするものは猜疑し合う。
苦難は共有せよ、安楽は共有してはならぬ。
安楽を独占せんと排除し合い始める。
士君子，貧不能濟物者，
遇人癡迷處，出一言提醒之；
遇人急難處，出一言解救之，
亦是無量功��。
士人、君子たらんと努めれば
財産なぞ抱えられようはずもない。
ならば財で人を救えるはずもない。
しかし進むべき先に迷うものを、
苦難に行き当たり、苦しむものを、
その言葉にて救い出すことが叶う。
この力をどう財貨に例えられようか。
遇人癡迷處，出一言提醒之；
遇人急難處，出一言解救之，
亦是無量功��。
士人、君子たらんと努めれば
財産なぞ抱えられようはずもない。
ならば財で人を救えるはずもない。
しかし進むべき先に迷うものを、
苦難に行き当たり、苦しむものを、
その言葉にて救い出すことが叶う。
この力をどう財貨に例えられようか。
飢則附，飽則颺；燠則趨，寒則棄，人情通患也。
君子宜淨拭冷眼，慎毋輕動剛腸。
腹が減ったら寄り、
腹が満ちたら去る。
こちらが豊ならばへつらい、
こちらが貧しくばあしらう。
所詮ひとなぞこのようなものである。
君子たるもの、ただその目を磨き、
冷静でおり、腹の熱に浮かされた
軽挙なぞせぬようしたいものである。
君子宜淨拭冷眼，慎毋輕動剛腸。
腹が減ったら寄り、
腹が満ちたら去る。
こちらが豊ならばへつらい、
こちらが貧しくばあしらう。
所詮ひとなぞこのようなものである。
君子たるもの、ただその目を磨き、
冷静でおり、腹の熱に浮かされた
軽挙なぞせぬようしたいものである。
��隨量進，量由識長。
故欲厚其��，不可不弘其量；欲弘其量，不可不大其識。
徳に伴い度量が、
度量に伴い見識が広がる。
徳を高めたければ度量が、
度量を高めたければ見識が
不可欠である。
故欲厚其��，不可不弘其量；欲弘其量，不可不大其識。
徳に伴い度量が、
度量に伴い見識が広がる。
徳を高めたければ度量が、
度量を高めたければ見識が
不可欠である。
一鐙熒然，萬籟無聲，此吾人初入宴寂時也；
曉夢初醒，群動未起，此吾人初出混沌處也。
乘此而一念迴光，炯然返照，
始知耳目口鼻皆桎梏，而情慾嗜好悉機械矣。
またひとつ明かりが消え、
街からあらゆる音が消える。
はじめて我が意識が、
安らいだ静寂に落ちてゆく。
明け方の夢より覚めるに、
街に未だ人々の気配もない。
はじめて我が意識が、
混沌のもとへと出てゆく。
こうした転機にて
我が心に光を当てれば、
あらゆるものが皓然と浮かび上がる。
このときようやく我が感覚が
もろもろがんじがらめとなっており、
なにゆえ情欲や好き嫌いの
奴隷になってしまうのかを悟るのだ。
曉夢初醒，群動未起，此吾人初出混沌處也。
乘此而一念迴光，炯然返照，
始知耳目口鼻皆桎梏，而情慾嗜好悉機械矣。
またひとつ明かりが消え、
街からあらゆる音が消える。
はじめて我が意識が、
安らいだ静寂に落ちてゆく。
明け方の夢より覚めるに、
街に未だ人々の気配もない。
はじめて我が意識が、
混沌のもとへと出てゆく。
こうした転機にて
我が心に光を当てれば、
あらゆるものが皓然と浮かび上がる。
このときようやく我が感覚が
もろもろがんじがらめとなっており、
なにゆえ情欲や好き嫌いの
奴隷になってしまうのかを悟るのだ。
反己者，觸事皆成藥石；
尤人者，動念即是戈矛。
一以闢眾善之路，一以導諸惡之源，相去霄壤矣。
自責の念を抱く者は
接するすべてを教訓に変える。
他責の念を抱く者は
接するすべてを傷つける。
前者には多くの善が集まり、
後者には多くの悪が集まる。
それは天地の開きにも似る。
尤人者，動念即是戈矛。
一以闢眾善之路，一以導諸惡之源，相去霄壤矣。
自責の念を抱く者は
接するすべてを教訓に変える。
他責の念を抱く者は
接するすべてを傷つける。
前者には多くの善が集まり、
後者には多くの悪が集まる。
それは天地の開きにも似る。
事業文章隨身銷毀，而精神萬古如新；
功名富貴逐世轉移，而氣節千載一日。
君子信不當以彼易此也。
どれだけ事業や学問における
功績の獲得に躍起になったところで、
死ねばそれまでである。
しかし自らを高めんとする心は、
未来永劫を新たなものとしてみせる。
どれだけ功名や富貴における
繁栄の獲得に躍起になったところで、
世の基準が変わればそれまでである。
しかし自らを高めんとする心は、
同じ基準で自らを磨き続ける。
君子たるもの、表向きの繁栄が
自らの発展の代わりになるとは
まるで信じておらぬのである。
功名富貴逐世轉移，而氣節千載一日。
君子信不當以彼易此也。
どれだけ事業や学問における
功績の獲得に躍起になったところで、
死ねばそれまでである。
しかし自らを高めんとする心は、
未来永劫を新たなものとしてみせる。
どれだけ功名や富貴における
繁栄の獲得に躍起になったところで、
世の基準が変わればそれまでである。
しかし自らを高めんとする心は、
同じ基準で自らを磨き続ける。
君子たるもの、表向きの繁栄が
自らの発展の代わりになるとは
まるで信じておらぬのである。
魚網之設，鴻則罹其中；
螳螂之貪，雀又乘其後。
機裏藏機，變外生變，智巧何足恃哉。
魚網に大きな鳥がかかることもあり、
獲物を狙うカマキリの後に
雀がいたりもする。
転機の中に別の転機が隠れ、
変化の向こうに別の変化が生じもする。
我が知恵や技術など、
どれだけ役に立ちきれようか。
螳螂之貪，雀又乘其後。
機裏藏機，變外生變，智巧何足恃哉。
魚網に大きな鳥がかかることもあり、
獲物を狙うカマキリの後に
雀がいたりもする。
転機の中に別の転機が隠れ、
変化の向こうに別の変化が生じもする。
我が知恵や技術など、
どれだけ役に立ちきれようか。
作人無點真懇念頭，便成個花子，事事皆虛；
涉世無段圓活機趣，便是個木人，處處有礙。
ひととして生きるに当たり、
多少なりともまごころあるふるまいが
できないと、乞食となるしかない。
どこに生きる実感を抱くというのか。
世の中を泳ぐに当たり、
多少なりとも他者に合わせられねば
木偶扱いは免れられぬ。
障り多き生涯を送りたいのか。
涉世無段圓活機趣，便是個木人，處處有礙。
ひととして生きるに当たり、
多少なりともまごころあるふるまいが
できないと、乞食となるしかない。
どこに生きる実感を抱くというのか。
世の中を泳ぐに当たり、
多少なりとも他者に合わせられねば
木偶扱いは免れられぬ。
障り多き生涯を送りたいのか。
水不波則自定，鑑不翳則自明，故
心無可清，去其混之者，而清自現；
樂不必尋，去其苦之者，而樂自存。
かき混ぜなければ水はいつか平らかとなり、
光を妨げなければ鏡は自ずと明るい。
心の混濁が抜ければ心清らかとなり、
抱える苦しみが抜ければ楽しみも蘇ろう。
心無可清，去其混之者，而清自現；
樂不必尋，去其苦之者，而樂自存。
かき混ぜなければ水はいつか平らかとなり、
光を妨げなければ鏡は自ずと明るい。
心の混濁が抜ければ心清らかとなり、
抱える苦しみが抜ければ楽しみも蘇ろう。
有一念犯鬼神之禁，一言而傷天地之和，
一事而釀子孫之禍者，最宜切戒。
ほんの気まぐれが世のことわりを乱し、
ひとつの失言が場の調和を損ね、
思いがけぬ手違いが子孫への災いとなる。
重にわきまえおかねばならぬ。
一事而釀子孫之禍者，最宜切戒。
ほんの気まぐれが世のことわりを乱し、
ひとつの失言が場の調和を損ね、
思いがけぬ手違いが子孫への災いとなる。
重にわきまえおかねばならぬ。
事有急之不白者，�酣薫深�明，毋躁急以速其忿；
人有操之不從者，縱之或自化，毋操切以益其頑。
事態究明を焦れば焦るほど
明白とならないものである。
鷹揚に構えた方が、
えてして究明は早いものである。
無駄に急かして
怒りを買う必要もあるまい。
無理に人を操ろうとしても
従わないものとはいるものである。
やりたいようにやらしておれば
えてして変化するものである。
下手にコンロトールを強めて
頑なさをつのらせることもあるまい。
人有操之不從者，縱之或自化，毋操切以益其頑。
事態究明を焦れば焦るほど
明白とならないものである。
鷹揚に構えた方が、
えてして究明は早いものである。
無駄に急かして
怒りを買う必要もあるまい。
無理に人を操ろうとしても
従わないものとはいるものである。
やりたいようにやらしておれば
えてして変化するものである。
下手にコンロトールを強めて
頑なさをつのらせることもあるまい。
節義傲青雲，文章高白雪，
若不以性情陶鎔之，終為血氣之私，技能之末。
天井知らずの道徳心とおごり、
天衣無縫の表現力と高ぶる者が
人間性的に未熟であれば
結局はただの自己愛の奴隷、
小手先の芸人でしかない。
若不以性情陶鎔之，終為血氣之私，技能之末。
天井知らずの道徳心とおごり、
天衣無縫の表現力と高ぶる者が
人間性的に未熟であれば
結局はただの自己愛の奴隷、
小手先の芸人でしかない。
謝事當謝於正盛之時，
居身宜居於獨後之地。
謹��須謹於至微之事，
施恩務施於不報之人。
辞去は全盛時になすべし。
居場所は最後尾が良い。
徳行は目立たぬようになせ。
報いを期待する恩は恩ではない。
居身宜居於獨後之地。
謹��須謹於至微之事，
施恩務施於不報之人。
辞去は全盛時になすべし。
居場所は最後尾が良い。
徳行は目立たぬようになせ。
報いを期待する恩は恩ではない。
交市人，不如友山翁；
謁朱門，不如親白屋；
聽街談巷語，不如聞牧唱樵歌；
談今人失��過差，不如述古人嘉言懿行。
市井の人と交わるならば隠者と交わりたく、
栄達の人に詣でるならば茅屋で語りたい。
町中の人々の話に耳そば立てるならば
山ゆく人々の歌を聴いていたい。
今の人の失敗談を語るならば
昔の人の美談を讃えていたい。
謁朱門，不如親白屋；
聽街談巷語，不如聞牧唱樵歌；
談今人失��過差，不如述古人嘉言懿行。
市井の人と交わるならば隠者と交わりたく、
栄達の人に詣でるならば茅屋で語りたい。
町中の人々の話に耳そば立てるならば
山ゆく人々の歌を聴いていたい。
今の人の失敗談を語るならば
昔の人の美談を讃えていたい。
��者事業之基，未有基不固而棟宇堅久者。
心者後嗣之本，未有本不立而枝葉茂榮者。
徳はものごとを動かすときの
基礎となる。
基礎の定まっておらぬ建物が
長らく立ち続けようか。
心はものごとを後進に伝えるときの
大本となる。
大本の定まらぬ言葉が
後進を育て育めようか。
心者後嗣之本，未有本不立而枝葉茂榮者。
徳はものごとを動かすときの
基礎となる。
基礎の定まっておらぬ建物が
長らく立ち続けようか。
心はものごとを後進に伝えるときの
大本となる。
大本の定まらぬ言葉が
後進を育て育めようか。
前人云：「拋卻自家無盡藏，沿門持鉢效貧兒。」
又，云：「暴富貧兒休說夢，誰家灶裏火無煙？」
一箴自昧所有，一箴自誇所有，可為學人切戒。
王陽明がこう語っている。
「自身が抱く無尽蔵の宝に気付かず、
何故物乞いのような真似をするのだ」
また、こうも言う。
「いきなり財産を得たもと貧民は
雑言を吐きがちだが、
やめておいたほうがいい。
どこの家にも
それなりの財産はあるものだ」
前者はおのれの才能に気付かぬものに、
後者はおのれの才覚を誇示するものに、
それぞれ戒めたものである。
学ぶものが、常に心に
留め置きたい内容である。
又，云：「暴富貧兒休說夢，誰家灶裏火無煙？」
一箴自昧所有，一箴自誇所有，可為學人切戒。
王陽明がこう語っている。
「自身が抱く無尽蔵の宝に気付かず、
何故物乞いのような真似をするのだ」
また、こうも言う。
「いきなり財産を得たもと貧民は
雑言を吐きがちだが、
やめておいたほうがいい。
どこの家にも
それなりの財産はあるものだ」
前者はおのれの才能に気付かぬものに、
後者はおのれの才覚を誇示するものに、
それぞれ戒めたものである。
学ぶものが、常に心に
留め置きたい内容である。
道是一重公眾物事，當隨人而接引。
學是一個尋常家飯，當隨事而講求。
人道とは共有すべき規範。
すべての人に寄り添わねばならぬ。
学問とは日常にある食事。
すべての時に求められねばならぬ。
學是一個尋常家飯，當隨事而講求。
人道とは共有すべき規範。
すべての人に寄り添わねばならぬ。
学問とは日常にある食事。
すべての時に求められねばならぬ。
信人者，人未必盡誠，己則獨誠矣；
疑人者，人未必皆詐，己則先詐矣。
他者を信じる者は、どれだけ周囲が
誠を尽くしているかはともあれ、
自身は誠を貫けているものである。
ひとを疑うものは、どれだけ周囲が
偽りを仕掛けているかはともあれ、
自身は偽りの中に身を浸すのである。
疑人者，人未必皆詐，己則先詐矣。
他者を信じる者は、どれだけ周囲が
誠を尽くしているかはともあれ、
自身は誠を貫けているものである。
ひとを疑うものは、どれだけ周囲が
偽りを仕掛けているかはともあれ、
自身は偽りの中に身を浸すのである。
念頭�邯�的，如春風煦育，萬物遭之而生；
念頭忌刻的，如朔雪陰凝，萬物遭之而死。
寛容さを厚く心掛けるものは
万物を産み育む春風の如きもの。
猜疑し酷薄さを抱えるものは
万物を凍らせ枯らす吹雪の如きもの。
念頭忌刻的，如朔雪陰凝，萬物遭之而死。
寛容さを厚く心掛けるものは
万物を産み育む春風の如きもの。
猜疑し酷薄さを抱えるものは
万物を凍らせ枯らす吹雪の如きもの。
為善不見其益，如草裏東瓜，自應暗長；
為惡不見其損，如庭前春雪，勢必潛消。
善行をなして何の利益があるのか。
草陰の瓜を思えば良い。
ひっそりと育ちゆくものであろう。
悪行をなして何の損害があるのか。
春先の雪を思えば良い。
音もなく溶けゆくものであろう。
為惡不見其損，如庭前春雪，勢必潛消。
善行をなして何の利益があるのか。
草陰の瓜を思えば良い。
ひっそりと育ちゆくものであろう。
悪行をなして何の損害があるのか。
春先の雪を思えば良い。
音もなく溶けゆくものであろう。
遇故舊之交，意氣要愈新；
處隱微之地，心迹宜愈顯；
待衰朽的輩，恩禮當愈隆。
旧友と出会うときにも、
心持ちを新たとしたい。
些末ごとに対処するにも、
心持ちをおそろかにせずおりたい。
衰亡の中にある方にこそ
感謝と礼儀を厚くしたい。
處隱微之地，心迹宜愈顯；
待衰朽的輩，恩禮當愈隆。
旧友と出会うときにも、
心持ちを新たとしたい。
些末ごとに対処するにも、
心持ちをおそろかにせずおりたい。
衰亡の中にある方にこそ
感謝と礼儀を厚くしたい。
勤者敏於��義，而世人借勤以濟其貧；
儉者淡於貨利，而世人假儉以飾其吝。
君子持身之符，反為小人營私之具矣。惜哉。
仕事とは徳を育むものに他ならぬが、
世の人は貧しさからの脱出手段と考える。
倹約とは貨殖に恬淡であることを言うが、
世の人はけちんぼの隠れ蓑と見る。
君子の修身は、得てして小人の私情の
隠れ蓑とされてしまう。惜しきことだ。
儉者淡於貨利，而世人假儉以飾其吝。
君子持身之符，反為小人營私之具矣。惜哉。
仕事とは徳を育むものに他ならぬが、
世の人は貧しさからの脱出手段と考える。
倹約とは貨殖に恬淡であることを言うが、
世の人はけちんぼの隠れ蓑と見る。
君子の修身は、得てして小人の私情の
隠れ蓑とされてしまう。惜しきことだ。
憑意興作為者，隨作則隨止，豈是不退之車輪；
從情識解悟者，有悟則有迷，終非常明之燈燭。
思いつきで動き始めたものは
思いつきで止まる。
その情念で、どこまで行き着けようか。
ふと悟ったものは
ふと迷う。
その見識で、いつまで照らせようか。
從情識解悟者，有悟則有迷，終非常明之燈燭。
思いつきで動き始めたものは
思いつきで止まる。
その情念で、どこまで行き着けようか。
ふと悟ったものは
ふと迷う。
その見識で、いつまで照らせようか。
人之過誤宜恕，而在己則不可恕；
己之困辱宜忍，而在人則不可忍。
他者の過ちは水に流し、
自らの過ちは改めるべし。
自らの困難屈辱は水に流し、
他者の困難屈辱は除くべし。
己之困辱宜忍，而在人則不可忍。
他者の過ちは水に流し、
自らの過ちは改めるべし。
自らの困難屈辱は水に流し、
他者の困難屈辱は除くべし。
能脫俗便是奇，作意尚奇者，不為奇而為異；
不合污便是清，矯情求清者，不為清而為激。
世俗心を脱ぎ捨て切れれば
超常、と言えよう。
しかし超常たらんと意識しすぎれば、
ただの偏屈人にしかならぬ。
世の汚泥より脱し切れれば、
高潔、と言えよう。
しかし本心をねじ曲げ高潔を目指しても、
ただの偏屈人にしかならぬ。
不合污便是清，矯情求清者，不為清而為激。
世俗心を脱ぎ捨て切れれば
超常、と言えよう。
しかし超常たらんと意識しすぎれば、
ただの偏屈人にしかならぬ。
世の汚泥より脱し切れれば、
高潔、と言えよう。
しかし本心をねじ曲げ高潔を目指しても、
ただの偏屈人にしかならぬ。
恩宜自淡而濃，先濃後淡者，人忘其惠；
威宜自嚴而�遏だ蔔邯縒郤圈た猶綢狭鵝�
恩を施すならば、先淡後濃である。
逆にすれば恨まれる。
威を施すならば、先濃後淡である。
逆にすれば恨まれる。
威宜自嚴而�遏だ蔔邯縒郤圈た猶綢狭鵝�
恩を施すならば、先淡後濃である。
逆にすれば恨まれる。
威を施すならば、先濃後淡である。
逆にすれば恨まれる。
心虛則性現，不息心而求見性，如撥波覓月；
意淨則心清，不了意而求明心，如索鏡�畤弌�
心のさざ波すら鎮めるようにして、
ようやく心の形が見えてくる。
波立つ水面に月を求めてどうなろう。
雑念を取り除くことにより
ようやく自身の思いが見えてくる。
鏡を磨くのに埃を積む者はおるまい。
意淨則心清，不了意而求明心，如索鏡�畤弌�
心のさざ波すら鎮めるようにして、
ようやく心の形が見えてくる。
波立つ水面に月を求めてどうなろう。
雑念を取り除くことにより
ようやく自身の思いが見えてくる。
鏡を磨くのに埃を積む者はおるまい。
我貴而人奉之，奉此峨冠大帶也；
我賤而人侮之，侮此布衣草履也。
然則原非奉我，我胡為喜？原非侮我，我胡為怒？
栄達した私の、
その地位をこそひとは尊ぶ。
微賤なる私の、
その立場をこそひとは侮る。
それをいちいち
喜び、怒ってどうするのだ。
我賤而人侮之，侮此布衣草履也。
然則原非奉我，我胡為喜？原非侮我，我胡為怒？
栄達した私の、
その地位をこそひとは尊ぶ。
微賤なる私の、
その立場をこそひとは侮る。
それをいちいち
喜び、怒ってどうするのだ。
「為鼠常留飯，憐蛾不點燈」，
古人此等念頭，今人學之，
便是一點生生之機。
無此，便所謂土木形骸而已。
蘇東坡が歌っている。
「ねずみのために残飯を確保し、
蛾が死なぬため明かりを消す」
と。
こうした心がけを学べば、
様々な機微を得ることができる。
こうした心掛けすら忘れれば、
動く木偶人形のようなものだ。
古人此等念頭，今人學之，
便是一點生生之機。
無此，便所謂土木形骸而已。
蘇東坡が歌っている。
「ねずみのために残飯を確保し、
蛾が死なぬため明かりを消す」
と。
こうした心がけを学べば、
様々な機微を得ることができる。
こうした心掛けすら忘れれば、
動く木偶人形のようなものだ。
心體便是天體，一念之喜，景星慶雲；
一念之怒，震雷暴雨；
一念之慈，和風甘露；
一念之嚴，烈日秋霜；
何者所感，只要隨起隨滅，廓然無礙，便與太虛同體。
身体の動きは天の動きに同じい。
喜びは星の瞬き、めでたき雲。
怒りは雷の轟き、激しき雨。
慈しみは穏やかな風、あるいは甘露。
厳しさは激しき日差し、あるいは霜。
身中に沸き起こったそれを感じ、
生まれたこと、消えゆくこと、
すべてを受け入れ、こだわらぬ。
こうして初めて道と
一体になれよう、と言うものだ。
一念之怒，震雷暴雨；
一念之慈，和風甘露；
一念之嚴，烈日秋霜；
何者所感，只要隨起隨滅，廓然無礙，便與太虛同體。
身体の動きは天の動きに同じい。
喜びは星の瞬き、めでたき雲。
怒りは雷の轟き、激しき雨。
慈しみは穏やかな風、あるいは甘露。
厳しさは激しき日差し、あるいは霜。
身中に沸き起こったそれを感じ、
生まれたこと、消えゆくこと、
すべてを受け入れ、こだわらぬ。
こうして初めて道と
一体になれよう、と言うものだ。
無事時，心易昏昧，
宜寂寂而照以惺惺；
有事時，心易奔逸，
宜惺惺以而主以寂寂。
平穏無事なときに
心はぼんやりとしがちである。
ならばこそ、よく内心を
照らし出さねばならぬ。
混乱動乱のさなか
心は慌てふためきがちである。
ならばこそ、よく内心を
落ち着かせておかねばならぬ。
宜寂寂而照以惺惺；
有事時，心易奔逸，
宜惺惺以而主以寂寂。
平穏無事なときに
心はぼんやりとしがちである。
ならばこそ、よく内心を
照らし出さねばならぬ。
混乱動乱のさなか
心は慌てふためきがちである。
ならばこそ、よく内心を
落ち着かせておかねばならぬ。
議事者，身在事外，宜悉利害之情；
任事者，身居事中，當絕利害之慮。
事業の検討の際には他人ごととして
事業によって生じる利害をことごとく
想定しきるべし。
事業の運用の際には自分ごととして
事業によって生じる利害をことごとく
度外視するべし。
任事者，身居事中，當絕利害之慮。
事業の検討の際には他人ごととして
事業によって生じる利害をことごとく
想定しきるべし。
事業の運用の際には自分ごととして
事業によって生じる利害をことごとく
度外視するべし。
士君子處權門要路，
操履要嚴明，心氣要和易，
毋詭隨而陷腥羶之黨，
亦毋矯激而忘蜂蠆之危。
士人君子が要職に立つとき、
折り目正しく謹厳かつ明察にして
その心持ちは
穏やかで柔軟であらねばならぬ。
間違っても阿諛追従に巻き込まれて
臭者の仲間に陥ってはならぬし、
無駄に驕り貶める言葉で
虫けらどもに刺される必要もあるまい。
操履要嚴明，心氣要和易，
毋詭隨而陷腥羶之黨，
亦毋矯激而忘蜂蠆之危。
士人君子が要職に立つとき、
折り目正しく謹厳かつ明察にして
その心持ちは
穏やかで柔軟であらねばならぬ。
間違っても阿諛追従に巻き込まれて
臭者の仲間に陥ってはならぬし、
無駄に驕り貶める言葉で
虫けらどもに刺される必要もあるまい。
標節義者，必以節義受謗；
榜道學者，常因道學招尤；
故君子不近惡事，亦不立善名，
只要和氣渾然，纔是居身之寶。
節度道義を表に出せば、
そのゆえにそしられる。
道標学識を表に出せば、
そのゆえに排除される。
なので君子は悪事に近付かず、
善名を目立たせようとせぬ。
ただ心身を穏やかに保ちおく、
あえて言えば、このことこそ
身を全うする宝である、
とは言えるであろうか。
榜道學者，常因道學招尤；
故君子不近惡事，亦不立善名，
只要和氣渾然，纔是居身之寶。
節度道義を表に出せば、
そのゆえにそしられる。
道標学識を表に出せば、
そのゆえに排除される。
なので君子は悪事に近付かず、
善名を目立たせようとせぬ。
ただ心身を穏やかに保ちおく、
あえて言えば、このことこそ
身を全うする宝である、
とは言えるであろうか。
遇欺詐的人，以誠心感動之；
遇暴戾的人，以和氣�眈�之；
遇傾邪私曲的人，以名義氣節激礪之；
天下之人，無不入我陶冶中矣。
私を騙そうとする者には
誠心誠意で接し、感動させよう。
私に害をなそうとする者には
和気藹々と接し、穏やかとさせよう。
邪心に捕らわれ、自らの本分を
見失った者に出会ったならば
道義心を思い出せるよう激励しよう。
天下万民は、私の懐に入れば
みな教化が叶うのだ。
遇暴戾的人，以和氣�眈�之；
遇傾邪私曲的人，以名義氣節激礪之；
天下之人，無不入我陶冶中矣。
私を騙そうとする者には
誠心誠意で接し、感動させよう。
私に害をなそうとする者には
和気藹々と接し、穏やかとさせよう。
邪心に捕らわれ、自らの本分を
見失った者に出会ったならば
道義心を思い出せるよう激励しよう。
天下万民は、私の懐に入れば
みな教化が叶うのだ。
一念慈祥，可以醞釀兩間和氣；
寸心潔白，可以昭垂百代清芬。
ちょっとした優しさが
相対する両名の緊張を解きほぐそう。
些細なる潔白さが
後世にその清名を伝え残そう。
寸心潔白，可以昭垂百代清芬。
ちょっとした優しさが
相対する両名の緊張を解きほぐそう。
些細なる潔白さが
後世にその清名を伝え残そう。
陰謀怪習，異行奇能，俱是涉世的禍胎。
殺身的利器，只一個庸��庸行，
便可以完混沌而召和平。
人を貶める怪しき企みや、
得意な能力を用いて渡世を望めば、
その先には往々にして禍が待ち受け、
身を滅ぼすきっかけとなりかねぬ。
凡庸と言われようと、ひとつひとつの
小さな徳業を積むことが
先の見えない世を生き延び、
穏やかに過ごす手立てである。
殺身的利器，只一個庸��庸行，
便可以完混沌而召和平。
人を貶める怪しき企みや、
得意な能力を用いて渡世を望めば、
その先には往々にして禍が待ち受け、
身を滅ぼすきっかけとなりかねぬ。
凡庸と言われようと、ひとつひとつの
小さな徳業を積むことが
先の見えない世を生き延び、
穏やかに過ごす手立てである。
語云：「登山耐側路，踏雪耐危橋。」
一耐字極有意味。
如傾險之人情，坎坷之世道，
若不得一耐字撐持過去，幾何不墮入榛莽坑塹哉。
こんな言葉がある。
「登山は坂道との戦い、
雪道は滑りやすさとの戦い。
これらに耐えねばならぬ」
この、耐という字は非常に重い。
人情はえてして険しく、
世情はえてして危うい。
耐の字を心に掲げおかず
進んでしまえば、さて、
いかなる藪や穴ぼこに
足を突っ込んでしまおうか。
一耐字極有意味。
如傾險之人情，坎坷之世道，
若不得一耐字撐持過去，幾何不墮入榛莽坑塹哉。
こんな言葉がある。
「登山は坂道との戦い、
雪道は滑りやすさとの戦い。
これらに耐えねばならぬ」
この、耐という字は非常に重い。
人情はえてして険しく、
世情はえてして危うい。
耐の字を心に掲げおかず
進んでしまえば、さて、
いかなる藪や穴ぼこに
足を突っ込んでしまおうか。
誇逞功業，��耀文章，皆是靠外物做人。
不知心體瑩然，本來不失，即無寸功隻字，
亦自有堂堂正正做人處。
己が業績を誇り、
文章を飾り立てるものがある。
彼らはみな、自分由来の
外のものに頼らねばならない。
我らが心身が放っておいても輝き、
本来の特質を失うことなぞない、
とさえ理解できていれば、
功績や文章なぞ大して残さずとも
既に立派な人のいとなみであると
気付けるはずなのだが。
不知心體瑩然，本來不失，即無寸功隻字，
亦自有堂堂正正做人處。
己が業績を誇り、
文章を飾り立てるものがある。
彼らはみな、自分由来の
外のものに頼らねばならない。
我らが心身が放っておいても輝き、
本来の特質を失うことなぞない、
とさえ理解できていれば、
功績や文章なぞ大して残さずとも
既に立派な人のいとなみであると
気付けるはずなのだが。
忙裏要偷閑，須先向閑時討個把柄；
鬧中要取靜，須先從靜裏立個根基；
不然，未有不因境而遷，隨時而靡者。
多忙時に余裕を確保したくば、
暇なときに自身と向かい合わねばならぬ。
落ち着かぬ時に心を落ち着かせたくば、
平静なときに自らの心根を覗かねばならぬ。
これができておらねば、
周囲でなく、自身の意向に基づき
動くことなぞ到底敵わぬ。
ただ周辺状況にふらふらと
揺れ動くのみとなろう。
鬧中要取靜，須先從靜裏立個根基；
不然，未有不因境而遷，隨時而靡者。
多忙時に余裕を確保したくば、
暇なときに自身と向かい合わねばならぬ。
落ち着かぬ時に心を落ち着かせたくば、
平静なときに自らの心根を覗かねばならぬ。
これができておらねば、
周囲でなく、自身の意向に基づき
動くことなぞ到底敵わぬ。
ただ周辺状況にふらふらと
揺れ動くのみとなろう。
不昧己心，不盡人情，不竭物力；
三者可以為天地立心，為生民立命，為子孫造福。
自身の心を見据え、
他者の感情を食い物にせず、
ものをあたら浪費しない。
この三つができるのが良い。
さらば今世に自己を打ち立て、
人々の生活を保証し、
子孫に恵みを残すこと叶おう。
三者可以為天地立心，為生民立命，為子孫造福。
自身の心を見据え、
他者の感情を食い物にせず、
ものをあたら浪費しない。
この三つができるのが良い。
さらば今世に自己を打ち立て、
人々の生活を保証し、
子孫に恵みを残すこと叶おう。
居官有二語，曰：「惟公則生明，惟廉則生威。」
居家有二語，曰：「惟恕則情平，惟儉則用足。」
官途にてこの二語を胸に抱く。
「公正さが明察を生む。
清廉さが威厳を生む」
家庭にてこの二語を胸に抱く。
「寛容が心の平安をもたらす。
倹約が日々の用を解決する」
居家有二語，曰：「惟恕則情平，惟儉則用足。」
官途にてこの二語を胸に抱く。
「公正さが明察を生む。
清廉さが威厳を生む」
家庭にてこの二語を胸に抱く。
「寛容が心の平安をもたらす。
倹約が日々の用を解決する」
處富貴之地，要知貧賤的痛癢；
當少壯之時，須念衰老的辛酸。
子供叱るな来た道だもの、
年寄笑うな行く道だもの。
當少壯之時，須念衰老的辛酸。
子供叱るな来た道だもの、
年寄笑うな行く道だもの。
持身不可太皎潔，一切污辱垢穢，要茹納些；
與人不可太分明，一切善惡賢愚，要包容得。
日々を送るのに潔癖すぎぬ方が良い。
あらゆる汚れを引き受けるくらいが良い。
人とあるのに察しすぎぬ方が良い。
善悪賢愚をすべて包み込むのが良い。
與人不可太分明，一切善惡賢愚，要包容得。
日々を送るのに潔癖すぎぬ方が良い。
あらゆる汚れを引き受けるくらいが良い。
人とあるのに察しすぎぬ方が良い。
善悪賢愚をすべて包み込むのが良い。
休與小人仇讎，小人自有對頭；
休向君子諂媚，君子原無私惠。
カスに構うな。
カス同士で遊ばせておけば良い。
君子に媚びるな。
君子はえこひいきせぬ。
休向君子諂媚，君子原無私惠。
カスに構うな。
カス同士で遊ばせておけば良い。
君子に媚びるな。
君子はえこひいきせぬ。
縱欲之病可醫，而執理之病難醫；
事物之障可除，而義理之障難除。
物欲の病はまだ治せても、
「正しさ」の病は治せぬ。
物理的な障害はまだ除けても
思い込みの障害は除けぬ。
事物之障可除，而義理之障難除。
物欲の病はまだ治せても、
「正しさ」の病は治せぬ。
物理的な障害はまだ除けても
思い込みの障害は除けぬ。
磨礪當如百煉之金，急就者，必非邃養；
施為宜似千鈞之弩，輕發者，決無宏功。
修身は丹念に、丁寧に。
鋼を幾百度も折り返し、叩くがごとく。
急いたところで、実力は涵養されぬ。
事業をなすには入念に、慎重に。
張力の高い弩を引き絞るがごとく。
気軽に発そうとしても、成果は出ぬ。
施為宜似千鈞之弩，輕發者，決無宏功。
修身は丹念に、丁寧に。
鋼を幾百度も折り返し、叩くがごとく。
急いたところで、実力は涵養されぬ。
事業をなすには入念に、慎重に。
張力の高い弩を引き絞るがごとく。
気軽に発そうとしても、成果は出ぬ。
寧為小人所忌毀，毋為小人所媚��；
寧為君子所責備，毋為君子所包容。
小人には嫌われておれば良い。
媚び諂われるよりマシである。
君子には厳しく接されたいものだ。
気でも遣われたら惨めである。
寧為君子所責備，毋為君子所包容。
小人には嫌われておれば良い。
媚び諂われるよりマシである。
君子には厳しく接されたいものだ。
気でも遣われたら惨めである。
好利者，軼出於道義之外，其害顯而淺；
好名者，竄入於道義之中，其害隱而深。
私利私欲を求めるものの
悪意はわかりやすい。
ならば、その害は浅い。
道徳義理を振りかざすものの
悪意は見えづらい。
ならば、その害は深い。
好名者，竄入於道義之中，其害隱而深。
私利私欲を求めるものの
悪意はわかりやすい。
ならば、その害は浅い。
道徳義理を振りかざすものの
悪意は見えづらい。
ならば、その害は深い。
受人之恩，雖深不報，怨則淺亦報之；
聞人之惡，雖隱不疑，善則顯亦疑之。
此刻之極，薄之尤也，宜切戒之。
受けた恩がいかに深くとも報いぬのに、
受けた恨みは浅くとも報復を志す。
人の悪事はどれだけ疑わしくとも信じ、
人の善事はどれだけ明白でも疑う。
そこまでして他者を貶めたいらしい。
こうはならぬよう戒めねばならぬ。
聞人之惡，雖隱不疑，善則顯亦疑之。
此刻之極，薄之尤也，宜切戒之。
受けた恩がいかに深くとも報いぬのに、
受けた恨みは浅くとも報復を志す。
人の悪事はどれだけ疑わしくとも信じ、
人の善事はどれだけ明白でも疑う。
そこまでして他者を貶めたいらしい。
こうはならぬよう戒めねばならぬ。
讒夫毀士，如寸雲蔽日，不久自明；
媚子阿人，似隙風侵肌，無疾亦損。
誹謗中傷などわずかに雲が
太陽を隠すようなものである。
すぐに晴れわたろう。
阿諛追従は隙間風が肌を
冷たく刺すようなものである。
知らず心身を損ねよう。
媚子阿人，似隙風侵肌，無疾亦損。
誹謗中傷などわずかに雲が
太陽を隠すようなものである。
すぐに晴れわたろう。
阿諛追従は隙間風が肌を
冷たく刺すようなものである。
知らず心身を損ねよう。
山之高峻處無木，而谿谷迴環則草木叢生；
水之湍急處無魚，而淵潭停蓄則魚鼈聚集。
此高絕之行，褊急之衷，君子重有戒焉。
高く険しき山に木が生えようか。
しかし渓谷は草木豊かである。
清く急な流れに魚がおろうか。
しかし留まる沢には魚が集まる。
行きすぎた高潔、行きすぎた厳しさ。
君子は重に気をつけねばならぬ。
水之湍急處無魚，而淵潭停蓄則魚鼈聚集。
此高絕之行，褊急之衷，君子重有戒焉。
高く険しき山に木が生えようか。
しかし渓谷は草木豊かである。
清く急な流れに魚がおろうか。
しかし留まる沢には魚が集まる。
行きすぎた高潔、行きすぎた厳しさ。
君子は重に気をつけねばならぬ。
建功立業者，多圓融之士；
僨事失機者，必執拗之人。
功績を挙げ、業績を残すものは
その人格が円満である。
事業を損ね商機を失うものは
執拗な性格をしているものである。
僨事失機者，必執拗之人。
功績を挙げ、業績を残すものは
その人格が円満である。
事業を損ね商機を失うものは
執拗な性格をしているものである。
處世不必與俗同，亦不宜與俗異；
作事不必令人喜，亦不可令人憎。
浮世にあっては、
世俗に近づきも、離れもせぬのが良い。
何かを成し遂げるには、
他者を喜ばせも、憎ませもさせぬよう。
作事不必令人喜，亦不可令人憎。
浮世にあっては、
世俗に近づきも、離れもせぬのが良い。
何かを成し遂げるには、
他者を喜ばせも、憎ませもさせぬよう。
日既暮而猶煙霞絢爛，歲將晚而更橙橘芳馨。
故末路晚年，君子更宜精神百倍。
日没後の夕暮れの美しさ、
厳冬の柑橘の芳醇さ。
これらを思えば、晩年であっても、
君子は心を更に高められるのであろう。
故末路晚年，君子更宜精神百倍。
日没後の夕暮れの美しさ、
厳冬の柑橘の芳醇さ。
これらを思えば、晩年であっても、
君子は心を更に高められるのであろう。
鷹立如睡，虎行似病，正是他攫鳥噬人法術。
故君子要聰明不露，才華不逞，纔有任重道遠的力量。
鷹は眠るかのように立ち、
虎は病にかかるかのように歩く。
こうして他の鳥をさらい、
ひとに噛みつく瞬間を狙う。
ならば君子も聡明さや才能を
秘しておくままが良い。
重きを担い、
遙かな境地に向かうのだから。
故君子要聰明不露，才華不逞，纔有任重道遠的力量。
鷹は眠るかのように立ち、
虎は病にかかるかのように歩く。
こうして他の鳥をさらい、
ひとに噛みつく瞬間を狙う。
ならば君子も聡明さや才能を
秘しておくままが良い。
重きを担い、
遙かな境地に向かうのだから。
儉，美��也，過儉則為慳吝，為鄙嗇，反傷雅道；
讓，懿行也，過讓則為足恭，為曲謹，多出機心。
倹約は美徳である。しかし行きすぎて
ケチやがめつさに至れば
美徳を損なう。
謙譲は美しき振る舞いである。
しかしばか丁寧さやへつらいになれば
下心ありとしか思われぬ。
讓，懿行也，過讓則為足恭，為曲謹，多出機心。
倹約は美徳である。しかし行きすぎて
ケチやがめつさに至れば
美徳を損なう。
謙譲は美しき振る舞いである。
しかしばか丁寧さやへつらいになれば
下心ありとしか思われぬ。
毋憂拂意，毋喜快心，毋恃久安，毋憚初難。
思い通りにならぬ事を嘆かず、
快楽の中にあることを喜ばず、
平和が永遠だなどと楽観せず、
初めて出会った苦難も避けず。
思い通りにならぬ事を嘆かず、
快楽の中にあることを喜ばず、
平和が永遠だなどと楽観せず、
初めて出会った苦難も避けず。
宴飲之樂多，不是個好人家；
聲華之習勝，不是個好士子；
名位之念重，不是個好臣工。
宴ばかりの家を
佳き人の家と呼べようか。
派手な名声を求めての振る舞いは
佳き人士の子として相応しかろうか。
地位や名誉ばかりを追いかけて、
佳き臣下としての働きができようか。
聲華之習勝，不是個好士子；
名位之念重，不是個好臣工。
宴ばかりの家を
佳き人の家と呼べようか。
派手な名声を求めての振る舞いは
佳き人士の子として相応しかろうか。
地位や名誉ばかりを追いかけて、
佳き臣下としての働きができようか。
世人以心愜處為樂，卻被樂心引入苦處；
達士以心拂處為樂，終由苦心換得樂來。
世の人は心に適うことを楽しむ。
叶わねば苦しみに沈み込むのに。
達した者は心に違うことを楽しむ。
叶わぬことを楽しみに変換しうるのだ。
達士以心拂處為樂，終由苦心換得樂來。
世の人は心に適うことを楽しむ。
叶わねば苦しみに沈み込むのに。
達した者は心に違うことを楽しむ。
叶わぬことを楽しみに変換しうるのだ。
居盈滿者，如水之將溢未溢，切忌再加一滴；
處危急者，如木之將折未折，切忌再加一搦。
満ち足り過ぎた境遇。
壺いっぱいに水が張るかのよう。
溢れるや否やに恐々とする。
危険な境遇。
木がまさに折れかけるかのよう。
ただのひと押しをすら恐れる。
處危急者，如木之將折未折，切忌再加一搦。
満ち足り過ぎた境遇。
壺いっぱいに水が張るかのよう。
溢れるや否やに恐々とする。
危険な境遇。
木がまさに折れかけるかのよう。
ただのひと押しをすら恐れる。
冷眼觀人，冷耳聽語，冷情當感，冷心思理。
冷静さが必要である。
ひとを見、言葉を聞き、
感覚を得、理屈を思うのに。
冷静さが必要である。
ひとを見、言葉を聞き、
感覚を得、理屈を思うのに。
仁人心地�醫亜な慂仝�而慶長，事事成個�醫維羮檗�
鄙夫念頭迫促，便福薄而澤短，事事得個迫促規模。
仁愛を施す者の心は穏やかであり、
ゆえに久しく幸福のさなかにある。
振る舞いはのびのびと、穏やかである。
つまらぬ事に拘う者はせこせこし、
ゆえに幸福の恵みも長く続かない。
振る舞いはせこせこ、せっかちである。
鄙夫念頭迫促，便福薄而澤短，事事得個迫促規模。
仁愛を施す者の心は穏やかであり、
ゆえに久しく幸福のさなかにある。
振る舞いはのびのびと、穏やかである。
つまらぬ事に拘う者はせこせこし、
ゆえに幸福の恵みも長く続かない。
振る舞いはせこせこ、せっかちである。
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